三百話 真実8

「そこまでなのだよ。」



睡蓮の振りかざした剣が

タチアナに届く寸前で、

バーゼンが睡蓮を押さえつけた。



「!?」



「あ、兄様!」



「よくぞ、耐えたのだよ。タチアナ。」



タチアナは一気に力が抜けて

胸を撫で下ろす。



「バ、バーゼン様!? な、なぜあなたが

ここに......」



「これだけ大きな声で騒いでいたら

誰だって気づくのだよ。それよりも、

なぜお前は俺の妹を攻撃しようと

していたのだ。」



「......」



「答えるのだよ。」



睡蓮は苦い顔をして目をそらす。

そんな彼にはぁとため息をついて

バーゼンは言った。



「お得意の弱い者いじめか?」



「なっ──」



「お前が自分より下の者に

危害を加えているのは

よく知っている。

お前の部下からもよく俺に

苦情が届いているのだよ。」



「お、俺は悪くない......弱い奴

なんかが生きてるのが悪いんだ......」



「まあ、何はともあれ......俺の

妹に手を出した落とし前はどう

つけるつもりなのだよ。」



バーゼンの刺すような視線に

睡蓮は何も言えず、ただ震えていた。



「直ぐに俺の前から消えるのだよ。

お前のような奴がいなくとも、

俺の妹が立派な騎士の隊長となる。

さあ! 早くしろ!」



バーゼンの怒りのこもった声に

睡蓮はひぃぃぃ!! と

すっかり怯えきった声を上げて

この場から逃げていったのだった。



全く......と睡蓮に呆れたバーゼンは

ちらっとタチアナに目を移した。



「大丈夫か? 鬼灯......」



タチアナが膝から崩れ落ちてしまった

鬼灯を抱き締めているのを見て、

俺はお邪魔かと、バーゼンは

その場を後にした。



「......何で......助けてくれたの......」



鬼灯はタチアナに今一番尋ねたかった

ことを口にする。



「? 君が私の友達だからだ。」



何故そんなことを聞くんだ?

とタチアナは眉をひそめて言った。



「......私なんて......助けなくても......

よかった......のに......」



「馬鹿な事を言うな......」



「だって......皆......言ってた.....

私なんて......存在する価値無いって......」



「そんなことはないさ。

なぜなら、私が君の存在を

欲している。」



「え?」



「私は君に私の友達として

存在して欲しいんだ。

それでは駄目か?」



「こんな私で......いいの?

......嫌いにならない?」



「嫌いになどなるものか。

寧ろ逆だ。これから私達の仲は深まって

いくのだ。」



蔑まれ、罵られ、殴られ、蹴られ、

そして捨てられた。

自分の存在する価値など家族はおろか、

自分すら認めてなかった。

それでも、彼女は認めてくれた。

自分の生きる意味をくれた。



タチアナが私を認めてくれる限り、

私は生き続ける。

タチアナが居てくれるのなら、

私は前に進める。

タチアナが生きていることこそが

私の存在意義とになる。



だから......私は......



「どんなことがあってもタチアナを

守る。」



「え? いきなりどうしたんだ......」



「......別に......」



鬼灯は密かに固まった意志を

心に秘めて、少し笑って誤魔化した

のだった。











【魔王城】




「どけ! ホーズキ!」



「嫌だ!」



「言っただろ! タチアナを

殺さねぇ限り、魔王はしなねぇんだよ!」



「それでもタチアナを殺すのは駄目!!

タチアナは私に存在する意味をくれた!

だから、絶対にそれだけは駄目!!」



「ホーズキ......」



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