二百八十八話 到着5

「リオン。回復魔法士様だ!」



ここは山々に囲まれ、他の町や村から

隔離された小さな村。

そんな名もない村で生まれたルドルフ

には一人、弟がいた。

名はリオン。

ルドルフは彼と共にこの村に唯一ある

雑貨店に買い物に行っていた。



「わかってるよ、兄さん。」



ルドルフとリオンは道の真ん中を

歩く三人の回復魔法士に頭を垂れる。



この村には病院のような施設は

なかった。

それに加えて回復ポーションなど

高価な物は売っていない。

だから、この村で何か病気に

かかったり、大怪我を負ったり

したら、それは死を意味していた。

しかし、十年程前ふらっと

この村に現れたのが、

あの回復魔法士達だった。

二人は三十代くらいの女性で、

もう一人は六十は超えているであろう

老婆だった。



そんな彼女たちがこの村に来てから

というもの、村で死ぬ者は

激減し、村の人々は彼女たちを

神と崇め始めたのだ。

それが時間が経つにつれ、

今ではあの回復魔法士達は

この村での絶対的支配者として

君臨してしまった。



何かの治療をして欲しければ、

多額の金をよこせと。

あたし達の前では

常に土下座をしろと。

でなければ、私達は

この村から去ると村人達に

警告した。



「行ったのか?」



「行ったよ、兄さん。」



「......じゃあ、帰ろう。」



二人を含めた、村人達は

いつも回復魔法士に怯えて暮らして

いたのだった。



そんなある日。

二人はいつものように

買い物を終えて、家に帰ろうと

していた。

その途中で二人は顔を布で

覆い隠している謎の集団と

遭遇した。



「君たち、聞きたいことがある

んだけど。」



「な、なんですか......この村には

何もありませんよ......」



ルドルフはその不気味な集団から

リオンをかばうように前に立つ。



「この村に魔法の力で人を癒す

ことのできる女性はいないかい?」




「......いますけど......」



「その人はどこにいるんだい?」



「この道を真っ直ぐ行ったところに

ある教会です。......けど......」



どうしてそんなこと聞くんですか?



そうルドルフが尋ねようと

した時、その集団は彼らを

押し退けて、走り出してしまった。
















【教会】



太陽の光がガラス窓を

通って教会の中を美しく照らす。

その光を浴びながら、修道女の

格好をした老婆は穏やかに本を読ん

でいた。



その時



「大変です! 老婆様。」



一人の回復魔法士が慌てた様子で

協会に入ってきた。



「どうした。そんなに慌てて。」



「今、村の者からこの村に回復魔法士

がいないか、と聞き回っている連中

がいるとの報告が......これは

もしかして......」



「......はぁ......この村は居心地が

よかったんだけどねぇ。

しょうがない。この村に火を

灯しな。そのどさくさに紛れて

とっとと逃げるよ!」



「は、はい!!」

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