二百三十五話 五年前

「五年前、ヤナハから出発した

部隊はこの島で全滅したんですか!?」



空いた腹にしこたま朝食を

流し込んでいた時、俺は

ふとその腕を止めた。



「おう。もう結構前の出来事だと

言うのに今でも時折その話題は

職業者達の間であがるな。」



そう俺に語るのは厳つくも優しい

牛喜さんだった。



「隼人、もしかして知らなかったのか?」



「え......い、いやその話は

聞いたことがあるくらいでして......」



すると、牛喜さんは眉をひそめて



「隼人、お前は一体どこから──」



と言いかけた時



「その出来事について興味が

あるならあの細目にでも

聞いてみれば?」



「よ、ヨーテル隊長!」



ヨーテルが俺たちの会話に入ってきた。

すると、礼儀正しい牛喜さんは

上司に対してピシッと背筋を伸ばす。



「細目......?」



「あの赤髪の男よ。」



「?」



「タチアナ隊長のお兄様だ、隼人。」



「ああ......」



確か昨日ラーバに操られていた

隊長の一人だったか。



「あの細目はその出来事について

調査してるから詳しいはずよ。

それに、今日はこの島で

五年前のことを調べるとも言ったし。」



「そうなんですか。わかりました。

ちょっと俺も行ってきます。」



「だ、大丈夫か? 隼人。不安なら

我輩も一緒に──」



「大丈夫ですよ、牛喜さん。」



なんでこの人こんなに優しいんだよっ!

惚れてまうやろ。



と頭の中で馬鹿なことを考えながら

俺は、そーっと俺が隣の席に

置いていた自分のリュックに

手を伸ばそうとしているヨーテルに

目を移す。



「言っときますけど、その中には

セルフカード無いですよ。」



その言葉にビクッと肩を震わせ、

な、なんのこと!?

とヨーテルはやや動揺する。



男嫌いのこの人が朝っぱらから

俺に話しかけて親切に接して

くれたのは何か裏があるからに

違いない。

俺はそう思って彼女を観察していた

が案の定、俺のセルフカードを

狙っていたらしい。



「じゃ、行ってきます。」



「何かあったら我輩を呼べよ!」



心配性で優しすぎる牛喜さんに

見送られて、俺は食堂を出た。

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