二百十七話 仲間の捜索15

タチアナは素早く方向転換をし、

来た道を戻る。

その速い足取りに迷子になるぞ

と言ってやりたいが、急ぎ足に

なってしまう気持ちもわかる。

本当に船からまだ30メートルも

歩いてないのだ。



「おかしい......何故船につかない。」



だが、俺たちは最悪の状況に陥って

しまった。

タチアナは自分の方位磁石を

見て慎重に戻ったようだが、

一向に船すら見えない。



「ちょっとタチアナ! ちゃんと

方位磁石見てたの!」



「ああ。だが......」



ヨーテルはタチアナの手に持っている

方位磁石を見て、方角は

間違って無いことを確認する。



「どうなってるのよ。

というか、ほんっと最悪!

やっぱあの脳ミソうんこ野郎、

船に置いてくるべきだったわ!」



とヨーテルはえげつない言葉を吐

き捨てる。



「.....あの一瞬の間に

ルドルフに何かあったのかも

しれない。」



「どうせそこら辺の

沼にでも捕まったんじゃないの!

もういいわよ、あんなやつ。

先に進みましょ。」



「駄目だ、ヨーテル。

我々にとってルドルフも

貴重な仲間だ。見捨てるわけには

いかない。」



「じゃあどうするのよ。」



「......」



霧が濃く、方角磁石が宛にならなく

なった今。大事なのはこれ以上

迷子にならないようにじっと

しておくということだが、それでは

あの弓使いの命が危ないかも

しれない。

タチアナは下唇を軽く噛みながら

うーんと悩み込む。

そんな中、俺はまた気づいてしまった。




もう一人いないということを。



「タ、タチアナ......」



「どうした、隼人。何かいい案が──」



「サッちゃん隊長がいない......」



タチアナとヨーテル、長老は

一瞬動揺したが、今度は素早く

警戒体勢に入った。

なぜならそう......こうも簡単に

次々と仲間の姿が消えるということは、

仲間が迷子になったとか、沼に

はまったとかそういう類いのものでは

なく......何かが近くにいるということ

だから。

だが、流石はこの世界で頭が

抜きん出た三人。

そのことを瞬時に察知したようで、

俺と三人は互いに背を向け、

どの方角からでも攻撃を

受けてもいいよう万全の

陣形を無意識にとる。

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