百六十話 三日月島25

「ま、大丈夫そうね。」



昼間、投石を十発以上くらい、

それに加えて海の水圧で押し潰され

ていた船が、もうすでに粉々に

なってやしないかとヨーテルは

心配していたが、十分みんなが

乗れるくらいには形状を保っていた。

元々潜水ように作られていた

船だったのでとてつもなく頑丈

なのだろう。ただ、幾分かは

修復をしなければ再び海に浮かせそうに

はなかった。



「よっと。」




ヨーテルは浮遊魔法で空に浮かせている

船に飛び乗り、船を洞窟の方向に

進ませる。

途中、海の様子を確認したが、

あの謎の影はどこにもなかった。



「ヨーテル様!!!!」




洞窟の奥からアルナの

叫び声が聞こえる。



大勢の足音をたてながら。



「上手くいったのようね。」



そう思ったヨーテルだったが、

アルナ達の後ろを追いかける

約三十人程の魚人兵を見てしまい、

頭を抱えてしまった。



「バレちゃってるじゃない......。

いいわ、そのまま早く乗り込みなさい!」




そう言うとヨーテルはほうきを

その三十人ほどの魚人兵に向ける。



「ジャイロストーム。」




するとほうきの先端から

ぐるぐると螺旋を描く風が

魚人兵達に放たれる。




「グア!!!!!」



その猛烈な風圧に魚人兵達は

洞窟の奥へと吹き飛ばされてしまった。



その間に、アルナをはじめとする

捕らわれた職業者全員がなんとか

船に飛び乗った。



「ヨーテル様!」



「これで全員ね! 行くわよ!」



仲間が飛び乗れるように

低空飛行をしていた船は

20メートル程上昇する。



「すごいすごい!」




こんな中、はしゃいでいられるのは

テイルだけだった。



「どこかに掴まったときなさ──」



その時



ドドドドドドドドドドドドッ!!!!!!



海が揺れ始めた。



空を飛んでいても、その振動が

伝わって来るほど大きな揺れだった。



「き、来たわね......」



ヨーテルの言葉通り、三日月島の海が黒く

染まる。



と同時にその黒海は

二メートル、三メートルと徐々に膨らみ、

海面の高さを上げていく。



四メートル、五メートル......十メートル




四十メートル



あっという間にその黒海は

飛行している船の高さを

ゆうに越え、あのときと

同じように船を包囲してしまった。



「は、速すぎるわ!」



ヨーテルも必死に船の高度を

上げていたが、追い付かれてしまい、

船の逃げ場がなくなった。



「ヨーテル様!」



「わかってるわよ!」



とは言っても、浮遊魔法を

使っているヨーテルには今、

他にこの場を打破する程の

魔法が無いのだった。

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