百五十五話 三日月島20

三日月島に飛び立った三羽のカラスは

それぞれ他方向に職業者達の居場所を

捜索していた。



その内の一羽のカラスが三日月島

にある明らかに人工的に掘られた

洞窟の中に入っていった。

中は暗く湿っており、時折見張りの

魚人兵に見つかりそうになりながらも

なんとか奥へと進む。




「ここから出せ!」



「黙れ。ここで大人しくしていろ。」



するとカラスはようやく

捕らわれた職業者達の居場所を

発見した。

魚人兵が約7人。

未だ意識を取り戻していない職業者や

目が覚めて出せ出せと騒いでいる

職業者達を檻の外で見張っていた。



「軍曹。この捕まえた人間は

どうするんですか?」



何やら人間に聞かれないように

こそこそと話をしている魚人兵二人に

カラスは耳を傾ける。



「じきに魔族の使者が

来るらしい。その時にそいつら全員

引き渡すんだと。」



「勿体ないなー。こんなに人間の女も

いるのに。」



「仕方ない。こいつらは魔王様や

マッドなんとかっていう幹部様からしたら

貴重な実験材料らしいからな。

傷一つつけらない。

ま、次にこいつらと会ったときは

醜い実験体にでもなってるだろうがな。」



「うわー、恐ろしい。」



カラスは二人が話し終わるのを

確認すると、ぱたぱたとなるべく

音を立てないように羽を広げ、

ヨーテルの元に戻っていった。















「なるほどね、ご苦労様。戻って

いいわよ。」



ヨーテルの元に戻ってきた三羽のカラス

から、ヨーテルは情報を受け取り、

元の世界へとカラスを帰した。



「酷い......一刻も早く助けてあげないと。」



「待ちなさい。」



剣を握りしめ、立ち上がったアルナを

ヨーテルは呼び止める。



「今は駄目よ。」



「しかし、その使者が来る前に

助け出さないと......」




「そんなのわかってるわ。

でも、もし仮に助けられたとして

それからどうするの? 何かこの島から

逃げ出す手段があるの?」



その言葉にアルナははっとする。


そう、もし今助け出せたとしても

この島から脱出するための船がない。

なぜならその船は先ほど自分達と

一緒に海に沈められたから。



「......」



「はぁ......こんなとき長老や、あの

うるさい生意気へんちくりん

精鋭隊がいてくれればいいんだけど。

いてほしい時にいない

んだから、ほんっと! 使えないわ。」



「あの......そ、その生意気へんちくりん

精鋭隊っていうのは......」



そのアルナの質問に、言わなくても

わかるだろ、という目でヨーテルが

睨んできた。



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