七十二話 見送り5

他のみんなが乗船する中、

俺も後を追い、乗り込もうとしたとき

メグが叫んだ。



絶対、帰ってきて、と。




もし、この討伐軍で上の大陸まで

行き、魔王を討伐すれば俺は

この世界から消える。

そしたら、もうメグには会えない。


だから、彼女に嘘をついてまで

軽はずみな言葉を返せない。


俺はなんと言えばいいかわからず、

少しその場に立たずんでしまった。



すると船の上から




「隼人、急げ! もう船が出るぞ!」



と牛喜さんが催促してきた。



「はい!」



このまま、メグの言葉が聞こえなかった

ふりをしよう。

守れない約束なんてしない。


これでいい。


これでいいんだ。



俺はそう自分に言い聞かせ、

船に乗る。




「出航!!」



誰かが号令をかけ、船が港を離れ

ようとする。




いいのだろうか、これで。

いや、これでいい。いいんだ。




頭の中で葛藤する。




彼女はどう思っただろうか。

こんな俺を。



聞こえないふりをした、この俺を。




俺はどうしても耐えきれず、ふと

港の方を見た。




「......っ!」



そこには泣きながらずっと

祈るように俺のほうを見ている

メグがいた。



「メグ!!!」



俺は咄嗟にメグに

向かって叫んだ。




最低だ.....俺は。

結局、俺は自分のことだけで

メグの気持ちなんてちっともわかって

いなかった。



きっとメグが泣いているのは、

別れが悲しくて泣いてるんじゃない。



また、一人にされるのが悲しくて

泣いているんだ。



そんな彼女に守れない約束だからと

いって突き放してどうする!?


これ以上孤独にしてどうする!



「必ず!! 必ずお前の家族を

助け出す!!!

絶対お前を一人にしない!!!

だから、泣くな!!!

泣かないで前だけみて歩け!!」





俺の叫び声が聞こえたのか、

メグは涙をふく。



「お前が立派な修道女に

なる頃には、必ず

お前の家族をここに連れてくる!

約束だ!!」


「うん!!!」



俺の叫び声に負けないくらい、

彼女は大きな返事を返してくれた。


「ピピッピッピッ!!!!!」



すると俺たちに

続いてペルーもまた、

何かしらの約束を

したようだった。











遠ざかる船を私はずっと

見ていた。



泣いている姿が見られたのが

恥ずかしかったけど、

隼人と約束をかわせたことが

何よりも嬉しかった。



「はぁ......また......待たなきゃいけ

ないのか......私も隼人と

あの船に乗れたらな......」



つい、そんなことを口走ってしまった。


けど、今回はただ待つだけじゃない。


私にだってやることがある。


そう気合いを入れた時だった。



「!?......嘘......」



私の視界にいるはずのない

ものが入る。



「......お姉......ちゃん......!?」


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