六十三話 選抜試験22

「忍法 土壁(つちかべ)......」



タチアナに向かって撃たれた氷の粒を

隣で眠っていた謎の女が

土の壁を生成して防ぐ。



「鬼灯さんだ!」



周りにいた職業者達が彼女を

見て、ざわめきだした。



「ひぃぃ!!」



すると鼠やろうから微かな悲鳴が

聞こえた。




「......お前......殺す。」



見れば、上階にいた鬼灯と呼ばれた

彼女がいつの間にか鼠やろうの背後

に忍びより、小刀を首に刺そうとしている。



「よせ、鬼灯!」



タチアナは間一髪のところで叫んだ。



「......」



鬼灯は鼠やろうを睨みつつも、

彼女の言葉で小刀を鞘に納めた。



「なんや! なんでわいがこんなめに!」




そう吐き捨てて、鼠やろうは

逃げるように試験会場から出ていって

しまった。



「はぁ......全く。静粛に!」



未だざわざわが収まらない

会場内でタチアナはパンパンと

手を叩く。



「ということで、いろいろあったが、

とりあえず君達は全員合格だ。

晴れて魔王討伐軍に参加することが

できる。」



その言葉を聞いてようやく安心できた

のか、周りの職業者達が歓喜し始める。



「ただし! この選抜試験ではあくまで

君達の協調性を計っただけであって、

正直、今のままでは戦力的な

面で考えて、連れていくことの

できそうにない者が何人かいる。

そこでだ。今から名前を呼ぶ者には

これから出向までの一ヶ月間、

各々の隊長の下で特訓を

受けてもらう。

そして、一ヶ月後、それぞれが

隊長の合格を貰ってくれ。

では、呼ぶぞ。」



皆に緊張が走る。

ここで名前を呼ばれれば、

あなたは弱いですよ、と

告げられるのと一緒だ。



頼むから呼ばないでくれ!

と皆、心のなかで思っていること

だろう。



「テイル。」



「えっ!!!!」



「ビルメ。」



「なんで!?」



いや、それさっきと同じ反応じゃん。



「服部隼人。」



「へっ!?」



「アルナ。」



「......はい。」



アルナさんは

わかっていたかのように

彼女の上司に返事をした。



それから、回復職の者全員と、

決闘で負けた者、あるいは戦って

いない者の名前が呼ばれた。




「以上で今回の選抜試験の

全てを終了する。

名前を呼ばれた者は明日から

隊長の下で訓練に励むように!

解散!」







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