第56話 ヤキモチ?

「先輩、それって不可抗力です。


僕は好きでそういう話をしていたわけじゃありません!

先輩こそどうでしょう?


詩織さんと、イチャイチャ、イチャイチャ……


少しは周りの目も気にしたらどうですか?」


「陽一君の目って節穴?


何処をどう見たらイチャイチャになるの?


彼女は皆の食事を作って、

お披露目していただけでしょう?


現に村上さんだって、

詩織さんと同じようにふるまっていたわけだし……


そりゃあ、ありがとうって労うのが誠意ってものでしょう?」


「詩織さんだって……


村上さんは村上さん呼びなのに……」


「え~ 呼び方は関係ないでしょう?」


「女性は名前で呼ばれると、

付け上がるんです~」


そう言って僕は下をべ~っと出した。


気付くと、いつの間にか僕たちは言い合いになっていた。


事の始まりは先輩の子供じみたヤキモチのような文句から。


彼らが帰り次第、先輩の口から出たセリフ。


「陽一君って八方美人なんだね。

年上男子にモテて嬉しかった?

随分楽しそうに話していたんだね。


どう? デートの予定でも立てた?」


僕としては


「ハ~?」


だった。


一体どこをどう見たら僕が楽しんで会話していたと思うんだろう?


それどころか、高崎さんの押せ押せに、ドン引きだったんですけど!

先輩こそちゃんと聞いてたのかな?


僕、突き放してたよね?

その部分は聞こえなかった?


席離れてるし、

皆が皆、お互いに話してたりしたから、

良く聞こえて無かったんじゃないの?


僕は初めて見た先輩の大人げない態度に少しびっくりした。


今までは、ちょっと不機嫌かな?

っていうシーンは所々であったけど、

ここまであからさまに怒った事は今までない。


先輩に嫌味っぽいことを言われ、

怒られたような感じになったけど、


“どうして今回はここまで……”


という思いはあった。


それにこれは僕だけの問題だけであって、

恋人でも何でもない先輩に口出しされる筋合いもない。


「先輩は高崎さんの事が嫌いなんですか?

恨みでもあるの?


それとも僕が嫌になった?」


そう尋ねると、先輩はハッとしたようにして僕の手を取り、

自分に抱き寄せた。


「ごめん、最近自分に余裕が無いんだよな」


「え? どこがそんなに余裕ないんですか?

先輩なんてリア充そのものじゃないですか!


仕事も成功しているし、

お金持ちだし、

友達もたくさんいて、こんな風に皆に慕われてるし……


マンション所有者だし……


それに…… 詩織さんとも……」


そう言って僕は俯いた。


「リア充か……

陽一君から見たら、そういう風に見えるんだね……


でもね、そんなリア充でもないんだよ。

手に入れたいものは……まだ入ってないしね」


先輩のそのセリフにびっくりして咄嗟に先輩を見上げた。


「先輩、そこまで色々と持ってるのに、

まだ欲しいものがあるんですか?!


とっぽど高いんですね?


そんなに必要なものなんですか?」


「そりゃあね、僕の一生を左右するからね。


僕には高すぎて、今はまだ手が出せないんだよ。


それに詩織さんとは本当にそんなんじゃん無いんだけどね……」


「そうか……


先輩でも手を出せないものがあったんですね。

なんでも持ってるパーフェクト男だと思ってたのに……


凄く高いものなんですね?

何が欲しいのか聞いてもいいですか?」


この時になると、僕たちはすっかり元のように仲良くなっていた。


僕の質問の後先輩は、僕を凄く優しそうな瞳で見つめると、


「手に入らなかったときが恥ずかしいから、

手に入ったときに陽一君にも見せてあげるよ」


そう言って微笑んだ。


その顔が何だか僕を包み込んでいるようで、

僕の顔からも、自然とほほ笑みが零れた。


「絶対約束ですよ?


でも、先輩の一生を左右する凄く高いものって何だろう?」


そうブツブツと考え込んでいたら、


「ねえ、明日は祝日だし、今日は泊っていく?


僕が要君に電話を入れておくよ?」


「大丈夫、僕一度家に帰って、

お泊りセット取ってきます」


「分かった、じゃあ僕はコンビニにひとっ走りしてくるから、

30分経ってインターホンを鳴らして」


「分かりました。

じゃあ、後でね」


そう言って僕は家への道を急いだ。

と言っても、エレベーターで上に上がるだけだけど……


「ただいま~

かなちゃんまだ起きてる?」


そう尋ねると、


「陽ちゃん、こっちだよ!

今矢野先輩から陽ちゃんのお泊り確認があったよ~


先輩には迷惑かけないようにね~」


と寝室から声をかけてきた。


僕は急いでお泊りセットをというか、

先輩の家専用にお泊り用のバッグが

いつもばっちりの状態で、クローゼット中に置いてあるので、

それを取るだけだった。


それを取ると、

両親の寝室へと行った。


中をの除くとお父さんが、

かなちゃんを膝枕にして寝転んで携帯をいじっていた。


かなちゃんは壁にもたれて片手でお父さんの髪を隙ながら、

片手で持った本を読んでいた。


その光景を見たとき、


“フフン、高崎め。


かなちゃんがお父さんと別れるわけないでしょう?


見てほら、今でも凄いラブラブ。


なんてったって運命の番だからね。”


と、訳の分からない自慢を自分自身にしていた。


「あれ? 陽ちゃん、何か用?」


かなちゃんが最初に気付いた。


中に入っていってベッドの端に座ると、


「ねえ、かなちゃんって詩織さんって知ってる?

先輩の会社の人では無いらしいんだけど、

ちょっと先輩と親密かな?って思って……」


そう尋ねると、お父さんが携帯をゴトッと落とした。


「え? 僕何か変なこと聞いた?」


お父さんのリアクションに少しびっくりした。


「お前、彼女に会ったのか?」


お父さんが訪ねた。


「今日ね、鍋パーティーに来てたよ?

まあ、彼女が率先して料理してたんだけどね。


今日で会うのが2回目かな?


前にも一度偶然に先輩の所で会ったし……」


それを言うとお父さんが、


「あのヤロ~」


とぼそっと言ったのをかなちゃんが遮って、


「詩織さんは先輩の趣味の仲間みたいだよ?

飲みとかもよく一緒に行ってるみたいだし……


まあ、詩織さんの先輩に対する距離が近いから、

先輩が何も思ってないんだったら気を付けてっては言ってるんだけどね~」


「じゃあ、かなちゃんも会った事はあるんだ?」


「そりゃあ、あれだけオフィスに差し入れ持ってこられちゃ……


ま、陽ちゃんが心配することでもないよ?


大丈夫、先輩は未だに陽一一筋だからね」


「まあ、僕自身、いつまでも5歳児扱いでは困るんだけどね~」


僕がそう言うと、お父さんが、


「ブハッ、そうか? まだ5歳児扱いか?

それ良いな、ま、あの鈍感君にはそれくらいが一番だな」


と笑っているところをか、

なちゃんに持っていた本でスパーンと叩かれていた。


「う~ん、だから一緒にベッドで寝る事も抵抗ないのかな?


僕いつも先輩の抱き枕になっちゃうし……


じゃあ、行ってくるね!」


そう言ってクルっと振り返った瞬間、


「ちょっと待て陽一、

お前、一緒の布団に寝てるのか?!


それは……」


とお父さんが言ったところで、かなちゃんに抑えられ、


「いってらっしゃ~い」


とかなちゃんは僕に大手を振っていた。


僕がルンルン気分で先輩の部屋まで行くと、

先輩もちょうど帰ってきたばかりの様で、

部屋のカギに手をかけているところだった。


「先パ~イ!」


そう言って駆け寄っていくと、


「お菓子の新発売があったんだよ!

早速今日仕入れたお茶と一緒に頂こうね!」


と、僕を中へと通してくれた。


そしてその夜も、やっぱり僕は先輩の抱き枕となった。



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