魔王と聖なる乙女 ~一万年前の真実~
第46話魔王と聖なる乙女~エルフの【祝福】と双子の男子~
※前半ハル視点(途中からフィル視点に切り替わります)
ーーーー
イーディスと話してる途中で、私が深い眠りに落ちて、どのくらい時間が経っただろう。
急に起きなくちゃいけないと、そう感じて、重い瞼をあける。
ぼんやりとした視界に、理由は分からないけど、思い詰めて泣いているフィル君が見える。
前にも感じた瘴気以外のナニかの気配が、前と同じ場所、フィル君の左前腕から感じて、よく見ると服の上から、右手で左前腕を、労うように擦っていた。
「…フィル君?」
気が付いたら声をかけていた。
「ハル、起こしてしまいましたか」
「ううん」
泣いているのに冷静な声で、私に声をかけるフィル君に違和感を覚えて、私の手は自然とフィル君の頬に、涙に触れていた。
「どうして泣いているの?」
「…泣いて?」
私に言われて、はじめて気が付いたのか、フィル君は自分の頬に触れて、驚いていた。そのフィル君の姿が危うく見えて、
「…何か…悲しいことが…あったの?」
「…………」
フィル君は何かに気付いたのか、
「…そう…ですね。聞いてくれますか」
「何を?」
「全てのはじまり、魔王が“誕生”して聖女が“封印”した
それは睦月や、聖女達が『どうして死がなくてはならなかったのか』
「……うん。話して」
私の返事を聞いたフィル君は静かに口を開いた。
「
「即位してから?」
「ええ。国王のみ入れる【禁書の間】と【陽炎の間】があります。…【
「…彼女?」
「……………」
「フィル君?」
「…歴代国王陛下からは
…ーフィル君。なんだろう、さっきとは違う思い詰めた顔。
『
「“カゲロウ”は初代聖女“聖なる乙女”の召喚に
「…巻き込まれて?」
「“聖なる乙女”の召喚時に“聖なる乙女”と一緒に魔法陣内に居たことで、ディアーナ王国が建国される前、伝承の“獅子”によって“召喚”されました」
「フィル君、待って!…その、かげ…ろうさんは私と同郷で、
フィル君は『
あの伝承の頃に“召喚”されたなら、既に一万年は生きているけど、
「…
私のしどろもどろな疑問に、フィル君はこくんと頷く。
「…彼女は“不老長寿”のユニークスキルを持っています」
「“不老長寿”ってエルフやダークエルフの?」
フィル君は、私の疑問を肯定するように頷く。
“不老長寿”はイーディスの同族、エルフやダークエルフしか持てないユニークスキルだ。
「どうして、かげろうさんが“
「……夫がエルフだったと」
夫がエルフ?
「なるほど、その女は
「イーディス!それにティティとガルフォンも何時からいたの!?」
「…ハルが起きて…フィルと…話していた…あたりから」
ティティの言葉に、私は青ざめる。
私が起きた時からって、私とフィル君の会話を全部聞かれていたってこと!
「お頭、椅子を用意したぞ」
「…ん、ありがとう…ガル」
入り口に居た3人が、室内に入り、ガルフォンが空間から取り出した、椅子に座る。
「…イーディス、その【祝福】は、どういうものですか?」
「……俺達、エルフ族が、
「………そう…なりますね」
イーディスの説明を聞いていたティティは、最後のイーディスの意味不明な呟きと、それを肯定したフィル君の言葉に、耳がピクピクと動く。
「……フィル…イーディスが言ってる…あの男の…戯れ言も…気になるけど…早く…続きを…聞かせて」
「そうですね。“カゲロウ”の話によるとーー…」
フィル君がティティの言葉に頷くと、千年前に【陽炎の間】で“カゲロウ”さんから聞いた、昔話を語りはじめた。
ーーーー
※フィル視点
僕は千年前、
『
両手で顔を覆い、俯いて泣いている“カゲロウ”が、
「
月日の違いはあるけれど、
「『ディアーナ王国の最北端、神竜を祀る神殿に仕えていた元聖騎士の男性と、呪術の一族の女性の間に、金髪と翡翠色の瞳を持った、双子の男子が生まれました』」
双子の兄ファラットは、あらゆる精霊や妖精を、特定のスキルを保有する人間を、遠くから喚び出せる“召喚士”の素質を持ち。
双子の弟ディアは、あらゆる魔物と意思疏通して使役する“魔物使い”の素質を持っていました。
“魔物使い”は魔物を使役するために、魔物のエネルギー源『魔素』を身体から生み出せましたが、人々は『魔素』を『瘴気』と呼び、忌み嫌っていました。
「きゃ。貴方、ディアから、また魔物が出たわ!」
「神官長様が用意して下さった、瘴気や魔物を祓う【魔除けの札】を使っても、駄目なのか…」
「次から次へと、魔物が溢れだして、きりがないわ!どうしたらいいの!?」
「村人に被害が出る前に、この子を殺すしかないのか……」
「それだけはやめて!!」
「俺だって、それだけは避けたい、だけど、他に方法がないんだ!被害が出てからでは遅いんだぞ!!」
「お父様に相談しましょう?お父様は、呪術一族の長だもの。何かご存知かもしれないわ」
夫婦は、もうすぐ2才になるディアを連れて、呪術一族の屋敷へ訪れ、
「お父様、何か方法はございませんか?」
「お義父様、ディアと村人が助かるなら、なんでもします!どうか力を貸してください!!」
「…………」
「…お父様、どうか」
「……少し待っておれ」
長は娘夫婦にそう声をかけると、部屋を出ていき、30分過ぎた頃に、黒い箱を抱えた従者と共に、部屋に戻り、黒い箱の中に仕舞われていた、大量の黒い数珠の腕輪や首飾りを娘夫婦に見せてました。
「これならなんとかなるかもしれぬ」
「「お父様(お義父様)それは?」」
「瘴気を吸収する呪術具だ。これをディアに身に付けさせれば、抑えられるやもしれん」
従者がディアに、黒い数珠のネックレスと、腕輪を身に付けさせ、ディアが生み出した瘴気が、黒い数珠に吸収されるのを見て、
「「お父様(お義父様)ありがとうございます!」」
娘夫婦は喜び、長に深々と頭を下げる。
「何かあれば、わしを頼れ」
「「はい」」
長は自室の窓からで、娘夫婦とディアが、屋敷を出て、自宅へ帰る姿を見つめる。
「……長」
「なんじゃ?」
「
「……
「……しかし」
「【白数珠】を作れる、呪術士は故人だ。仕方なかろう。お前は文献を調べ、他の方法を見つけろ」
「かしこまりました」
使用前の【白数珠】は、名前のとおり白く、瘴気を吸収することで、黒く染まる。
「成長したら、力を制御出来るようになるだろう」
長は呟きは、現実にはならず、その考えは甘かったと、後々知ることになる。
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