第69話 記憶
「ユイナ、早く起きなさい。学校遅刻するわよ?」
あっ!! いっけなーい。今日は日直なんだった。
あれ? あたし、なにか大事なことをわすれてない? だれか、たいせつな人をわすれてる?
どうして、涙があふれてくるの?
「ユイナ? ちょっとやだ。どうしたの? 熱でもあるの?」
あたしを起こしに来たママが、とってもあわてている。
「ママ、あたし――」
「うれしいわよね? だって今日、パパが出張から帰ってくるんだから」
そうだった?
「熱はなさそうね。はい、したくもできた。まったく、ユイナは泣き虫なんだから」
そう、あたしは泣き虫。どうしようもないくらいの泣き虫なの。でも、わけもなく泣いたりはしないのに。どうして?
ふいに胸に下げた十字架のネックレスを握った。あれ? これってすごくたいせつなものだったよね? どうしてだっけ?
「おはよー、ユイナっ!!」
「あ、おはよう。ミチルちゃん。今朝もラブラブだねぇ」
ともだちのミチルちゃんの隣では、彼氏の井川くんが照れ臭そうに笑っている。
「えっへへ。付き合い始めて二日目だからねっ!!」
「そうだよ、すごいよ。まさか廊下で告白するとは思わなかったからさぁー? あれ?」
そうだったっけ? なにか、わすれているみたい? でもたしか、ミチルちゃんのパパが再婚するんだって言ってたっけ?
「もう、はずかしかったけどお、言ってよかった。ねっ、ナオフミ」
「うん、ぼくも、身の丈に合う恋ができてうれしいよ」
井川くんはずっと、地元商店会のご当地アイドルのシーちゃんを好きだったんだもんね。ちょっとだけあたしに似てるらしいんだけど、そのおかげでちょっとミチルちゃんともいろいろあったけど。
でも、今はこうしてふつうにしてるし。まぁ、いっかあ。
「それよりユイナ、パパが帰ってくるんでしょ? すんごくイケメンだってうわさだょー?」
「そうなの。パパがね。……あれ?」
帰ってくる? なんだろう? すごい違和感がある。パパはいつから海外赴任だったんだっけ? それにあたし、背中にもっとなにかがあったような気がする。たいせつな、なにかが――。
「ユイナ」
聞き覚えのあるその声に、はじかれたように顔を上げた。
「アイビー?」
どこにいたの? どうしていっしょじゃないの? いつからそこにいたの?
「悪い、清野、井川。ユイナ少しかしてくれるかな?」
金髪の天使は、二人にことわると、ほろほろと涙が止まらなくなったあたしの肩をやさしくつかんだ。
つづく
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