第59話 結界の中で
教室にもどる途中の廊下で、突然視界が灰色に変わった。みんなの動きが止まる。結界だ。黒羽根の天使がまた来たんだ。でも本当に、だれが黒羽根の天使なんだろう?
全身が黒く染まった黒羽根の天使は、影のようにぼんやりと目の前にいた。
「聞いて。あたしの羽根をあなたにわけてあげるから、もうこういうことするのやめて欲しいのっ」
「羽根……。白い、羽根……」
以前にも増してひずみがひどくなった声で黒羽根の天使は羽根攻撃をしてくる。すぐにアイビーがかけつけてくれて、すべての攻撃をふせいでくれた。
「アイビー、あたしの羽根を、黒羽根の天使にわけたらどうかな?」
「残念ながら、もうそういう段階じゃない」
アイビーはあたしに、十字架を渡すようせかした。でも、あたしは攻撃したくないよ。
「ここでおまえが死んだら、マサハルをたすけるどころか、ヤヨイを悲しませることになるんだぞっ!?」
死、という単語にあたしは恐怖を感じた。嫌だ。まだ死にたくない。ママが悲しむなんて嫌だ。パパにも会いたい。
あたしは十字架を取り出してキスをした。それを待ちかねたようにアイビーがひったくった。
「くっそ。だんだん強くなってきてやがる」
アイビーは十字架を剣に変えてささやいた。
「救おうなんて思うな。こいつは最初から救えないんだ」
そんな。だって、この子だって天使なのに。それなのに救えないだなんて。
「死ねヨ?」
黒羽根の天使があたしに剣を振りかざしてくる。同時に槍のようなたくさんの羽根をかわしてゆくけれど、とてもじゃないけどかわしきれない。
覚悟をして目をつぶるも、痛みはこなかった。おそるおそるあけた目から、流血したアイビーが立ちはだかっている。
「アイビー、血が」
「そんなのどうでもいい。今は勝つことを考えろっ」
「でもっ!!」
もし、この子が天使じゃなかったとしたら? もし、人間界にあずけられなかったら? もし、やさしい人がそばにいたら?
たくさんの可能性が否定されたこの子のことを、あたしまで見捨てなきゃいけないのっ?
「バイバイ、いい子ちゃン」
その時、黒羽根の天使の手のひらから真っ黒な槍があらわれて、あたしの心臓をつらぬいた。
つづく
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