第45話 やつあたり

 いきおいよく教室から飛び出したのはいいけど、またもどらなくちゃならない。気まずくて、でも足はちゃんと教室に向かっていて、自分の習性に腹が立った。


 ミチルちゃん、怒っているよね? そもそも最初から、あの三人にたて突いていたらこんなことにはならなかったのに。


 あたしのせいだ。あたしが三人に遠慮なんてしたから。でも、あの時言い返したとしても、三人はきっと揚げ足を取るに決まってる。あたしを怒らせようとしてやったんだ。


 ほんっとうに迷惑な三人。あんなの、あんなのっ。


『ユイナ、やめろ』

『アイビー? アイビーが悪いんだよ。なぞのフェロモン出して三人をたぶらかして』

『それは本当におれのせいか?』


 ちがう。あたしは今回のことを、だれかのせいにしたかっただけだ。


『悪い感情を抱くな。おまえの羽根まで黒く染まったらどうする?』


 そうしたら、あの黒羽根の天使と仲良くなれるかな? あたしの気持ち、わかってくれるかな?


『御都合主義なのはけっこうだがな』


 アイビーがあたしの頭の中で叫んだ。


『天使がなさけないことを考えるんじゃないっ!! みっともないだろうがっ』

『だって、アイビーがたすけてくれなかったのが悪いんじゃん。あたしのせいじゃないもんっ。それに、黒羽根の天使だってめっちゃ強いし』


 ちがう。そうじゃない。あたしが今ナーバスになっているのは、ミチルちゃんのことや、黒田くんのこと、それに放課後の面談が憂鬱だったりするからだ。あたし、アイビーにやつあたりしてる。すごく、すごく嫌な子になってるよ。


『落ち着け、ユイナ。おまえはすぐ極端に思い込むくせがある。とにかく深呼吸だ。それからあとは、なるようにしかならない』


 あたしはアイビーのことなかれ主義な発言にさらにイラッとしてしまった。


『半分はアイビーのせいじゃんっ!! アイビーはあたしの守護天使なのに、みんなから少しも守ってくれないし、それどころかあの三人ますますひどいこと言うし、もうアイビーなんて大っ嫌い!!』


 目を閉じて、頭の中で叫ぶと、黒い感情がわき上がってきた。もういい。どうなったってかまわない。アイビーなんて、大嫌い。廊下を走るあたしの肩を乱暴につかむ手があった。


「ミチルちゃん?」


 ミチルちゃんは、すごくおっかない顔をしていた。


「ユイナは黒田くんのことが好きなんじゃなかったの?」

「そう、だけど」


 声がかすれる。あたしはミチルちゃんに壁ドンされた。ふつうなら萌えるシチュエーションんなんだろうけれど、今はこわくて足がふるえた。


「だったら早く告っちゃえばいいじゃん。あんたがあいまいだと、みんなが迷惑するんだけど」

「ミチル、ちゃん?」


 わかってる。そんなことはわかってるんだけど。でも、そんなの無理だもん。できないもん。


「あんたのそのにえきらない態度、見ててすごくムカつく」


 あたしはその場にくずおれた。ミチルちゃんは背中を向けて歩き始めてしまった。


 なにも、言い返せなかった。ミチルちゃんの気持ちも、すごくよくわかっているから、だからよけいになにも言えなかった。


 あたしは、どうすればいいの?


 つづく

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