第30話 お皿
モザイク模様の景色の中で、ちいさなあの子が泣いている。そう、たぶんあれが黒羽根の天使。その子供時代。
顔にはもっと強力なモザイクがかかっていて、性別すらわからない。その子が泣いていたのは、お皿を割ってしまったから。その子のママが大切にしていたお皿を割ってしまったから。
割れたお皿はもうもどらない。
その子が泣いても、もうもどらない。
そして一日、その子は泣きつづけた。パパが帰って来なかったから。だれもそばにいてくれなかったから。
いい子でお皿を洗ってほめられたいと願ったはずなのに、すべてが裏目に出た。そのせいで、その子の背中のちいさな羽根はわずかに黒く染まった。
そうか。わかったような気がする。あの子は、悲しい思いや、くやしい思いをすると、羽根が黒く染まってしまうんだ。
大丈夫だよ。そう声をかけてあげたいのに、どうしてか声すら届かなくて。
だってその子はあたしだから――!?
え? まさか、そんな。ありえないよ。だって、だってパパは一度も帰ってきたことがないもの。ママのお気に入りのお皿を割ったのは、あたしなの? 記憶が混乱して、ここが夢の中だということさえわからなくなっていた。
つづく
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