第26話 決着

 アイビーも自分の羽根を引き抜いて、白い剣へと形を変える。黒い剣と白い剣が、ガチャンとぶつかりあって、ギリギリときりもむ。一見すると、黒羽根の天使のほうが部が良さそうに見えるけれど、アイビーの顔には笑みがある。


「どーした? 黒羽根。おまえの力はそんなものかよ?」

「まだだっ!!」


 黒羽根の歪んだ声が響く。結界の外は、時間が止まっている。お散歩しているおばあちゃん。砂場で遊ぶ子供たち。そんな子供たちを見守るやさしいお母さん。


 みんなに被害があってはいけないっ!!


「ユイナ、十字架を投げてくれ」


 言われて投げた十字架は、まっすぐにアイビーの手におさまる。


「これからおまえに、本物の剣の使い方をおしえてやろう」


 アイビーの手に握られた十字架は、荘厳なつるぎへと変わった。右手に握られていた羽根の剣は、盾へと変わる。


「たぁぁぁぁぁぁっ!!」


 横一線にアイビーの剣がないで、黒羽根の天使の真っ黒な衣装が裂けた。


「くっ。ここまでか。だがあきらめないぞ。必ずおまえの羽根をもぎ取ってやる!!」


 悔しまぎれに黒羽根の天使が絶叫すると、そのまま姿が消えてしまった。アイビーは、結界が解ける前に、あたしに十字架を投げてよこした。アイビーの羽根と輪っかが消えてゆく。


 あたしも、なにごともなかったようにネックレスをつけるけど、まだ興奮していた。


「アイビー、あなたとっても強いのね」

「あれは、やつが弱すぎただけだよ」


 めずらしく謙遜してみせたアイビーは、肩の力を抜いて笑った。


「とにかく、これからはこういう不意打ちがあるはずだから、お互いに気をつけよう」

「もし、アイビーがいない時におそわれたら?」

「その時は十字架に願ってくれればすぐ行くから、心配するなよ」


 そこでようやく、あたしも息を吐き出した。ずっと緊張していたんだ。手汗がすごい。


「じゃ、とりあえず家に帰ろうぜ?」


 アイビーに肩をつかまれたけれど、あたしは動くことができない。


「ねぇ、黒羽根の天使って、ミチルちゃんじゃないよね?」


 たった今、わかれたばかりのミチルちゃんの姿が脳裏をよぎる。そんなわけがない。だけど、確信はない。


「まだわからんが、候補として頭に入れておいた方がいいのかもしれないな」


 そんな。だとしたら、ミチルちゃんは、あたしと知っていておそってきたことになる。ううん、まだ黒羽根の天使がミチルちゃんだと決まったわけじゃない。


 あたしは頭を左右に振って、なんとか気持ちを切り替えた。


 つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る