第25話 黒羽根の天使

「ありがとう、ユイナ。ぼく、小さな頃からずっと、ナオフミだけを見てきたんだ。だからかなぁ。なんだか、シーちゃんにナオフミを横取りされちゃった気分で悲しかった」

「うん。わかるかもしれない」


 パパが実は天使だったことも、実は一度も会ったことがないことを知ったのも昨日のこと。その複雑な気持ちは、似ているんじゃないかと思う。


 ミチルちゃんはベンチから元気に立ち上がって、スカートをはたいた。


「なんか、話聞いてもらったら元気出た。ありがとうユイナ」

「ううん。あたしにできることなら、なんでも言って」

「うん。よろしくね。じゃあぼく、帰るから」

「うん。また明日ね」

「バイバイ」


 きっと、ミチルちゃんは恋の話をしたことがはずかしかったんだろうと思う。だから駆け足で公園から去って行った。


「さてと。これでミチルの片想いの相手がはっきりしたわけだ」


 突然、藪の中からあらわれたアイビーに、あたしはすっごくおどろいた。


「アイビー!! 黒羽根の天使を探してたんじゃなかったの?」

「最初はな。だがすぐに、ユイナの側にいた方がいいと判断した」

「どうして? え? あれ?」


 あたしの視界が、アイビーの他は灰色に染まる。これってなにっ!?


「結界だ。黒羽根の天使が来るぞ。ユイナ、戦えるか?」

「そんなのいきなり言われたって、戦えませんーっ!!」

「そうだよな」


 そう言うと、当たり前のようにアイビーがあたしの前に立ちはだかった。


「いいか。おれの後ろから離れるんじゃないぞ?」

「え? あ、うん」


 そうして、灰色の結界の中に、あたしとおなじくらいの背丈の、黒羽根の天使があらわれた。顔には仮面がかぶさっていて、男の子なのか、女の子なのかの見当もつかない。


「おまえの力をよこせ」


 黒羽根の天使の声は、ひずんでいて、昨夜夢の中で聞いたものよりもゆがんでいた。


「いやよっ!! あたしは、だれかの恋をかなえて、パパと会うんだからっ!!」


 そのだれかは少なくともミチルちゃんのことなのだけれど、黒羽根の天使にわざわざに言うつもりはなかった。


「ならば、奪うまで」


 黒羽根の天使は、両手をこっちに向けた。手のひらからは、黒い羽が一枚ずつ攻撃してくる。少し触れただけでも、皮膚を裂く勢いだ。


「まずいな。ユイナ、十字架にキスしろ」

「ええっ!? こんな時になに言っているの?」

「おれの力を解放するんだ。さぁ、早く」


 このままでは殺されちゃうかもしれない。あたしはふるえる手で十字架を取り出すと、生まれてはじめてのキスをした。


 その途端、アイビーの体がキラキラと輝き始める。


「封印解除。これより黒羽根の天使を攻撃する」


 だれかに確認を取るようにそう言うと、アイビーは大きく回転しながら、迫り来る黒い羽根をはじけて、黒羽根の天使に回し蹴りをした。蹴りは黒羽根の天使のみぞおちに決まる。


「おのれっ!! おのれ、おのれっ!!」

「おまえはおれには勝てない。なぜならおれは、ユイナの守護天使だからだ」


 にやりと笑ったアイビーが心強く感じる。


「帰って父親に泣きつくんだな。それとも、罵倒されてまた来るか?」

「おのれぇぇぇっ!!!」


 黒羽根の天使は自らの羽根を一枚引き抜いた。その羽根は剣へと変わる。


「おもしれぇ。そうでなくっちゃな」


 アイビーはおもしろがってるけど、気をつけてぇーっ!!


 つづく


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る