第24話 秘密の会話

 そしていよいよ放課後になった。あたしは、アイビーに頭の中で連絡して、黒羽根の天使の捜索をお願いした。


 あたしが考えていることは、全部アイビーに筒抜けだけど、女の子の秘密にまでは口出しされないだろう。


 なによりも、だれかの恋をかなえるチャンスでもあるんだ。ここが踏ん張りどころ。


 明日の放課後のこともあるし、おこずかいがそんなにないあたしたちは、公園の自販機でジュースを買って、ベンチに腰かけた。


 ああ、今日も暑いなぁ。


 そんな風に考えていたら、ふいにミチルちゃんが口を開いた。


「話って、ぼくの好きな人のことだよね?」


 いきなり確信を突かれてギョッとするあたしに、ミチルちゃんはやさしい顔で微笑んだ。


「ユイナは黒田くんのことが好きなんだよね。それは、見ていればすぐにわかる。あの日、ワンちゃんを助けたところで好きになったんでしょう?」


 そこまではっきり言われちゃったら、うなずくことしかできない。あたしは、天使だという正体まで見透かされないようにと願いながら、もう一度うなずいた。


「それで、ミチルちゃんの好きな人ってだれなのか、聞いてもいい?」


 本当は井川くんなのかをすぐに聞きたかったけれど、お行儀が悪い気がして、遠回しに聞いてしまった。


「ユイナは本当に鈍いなぁ。それとも、気づいてないフリでもしてるの? ……あのね、だれにも言わないって約束できる?」


 アイビーの顔が浮かんだけれど、これは例外。あたしは力強くうなずいた。だって、いつも強気なミチルちゃんがこんなに戸惑うのなんて、はじめてだもん。


「ナオフミだよ」

「えっ!? 井川くん?」


 そんな気はしていたけれど、いざ実際話を聞いてしまうとあらためておどろいてしまう。だって、井川くんとミチルちゃんは、おさななじみで、なんとなくともだちなのかなと思い込んでいたから。


「でもあいつ、アイドルが好きでさぁ」

「え? あの、井川くんが?」


 そうそう、あのナオフミが、とミチルちゃんは笑いながら繰り返した。


「ユイナは『パーフェクト・ロイヤル・スリーエンジェルズ』っていうご当地アイドル知ってる?」

「ああ、うん。たしか、女の子二人と男の子の三人組だよね? すごくきれいな声で歌うの」


 そうそう、となかばあきれたようにミチルちゃんはつづけた。ミチルちゃんの長いまつ毛が、さみしそうに伏せられる。


「ナオフミといっしょに買い物してたらさぁ、たまたま商店街で『エンジェルズ』のイベントやっていてさぁ。センターのシーちゃんを見て、ナオフミが柄にもなく興奮しちゃってさ。彼女はぼくの天使だ、なんて言い出しちゃって」


 あれ? 井川くんも、自分のことをぼくって言うんだ? って、そこじゃない。あたしは、三人のうちのシーちゃんに少し似ていると言われることがたまにある。もちろん、シーちゃんの方がずっとかわいいんだけれども。


「そ。だからそれから、ユイナのことを気にし始めてるみたいでさ。本当、バカみたい」


 吐き捨てるようにそう言うと、ミチルちゃんの目から涙がこぼれ落ちた。


「ぼくが何年も片想いしているのに気づかないで、ご当地アイドルなんかに熱あげちゃってさ。それで? 今の聞いて、ユイナはどう思った? 黒田くんがダメだったら、ナオフミで妥協しようとか思った?」

「そんなこと、絶対にないからっ。あたしは、あたしは、黒田くんが好きだし、ミチルちゃんのことは本当に全力で応援するよ」


 でもこれで、最近井川くんがあたしにやさしくしてくれる理由がわかったんだけど、かなり複雑な気持ちだよ。だって、どうすれば恋の矢印をシーちゃんからミチルちゃんに向けることができるんだろう?


 こんなんで本当に、ミチルちゃんの恋をかなえてあげられるのかしら?


 つづく


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