第23話 ママに連絡

 というわけで、とりあえずママにメールを送ってみた。まだお仕事中だろうから、返事は後になるかなって思っていたら、すぐに返信が来た。


[ちょっと、どういうことになっているの? ユイナは大丈夫なの?]


 ママはかなり混乱していた。


 こんな時は、あたしがママにテレパシーみたいな力を使って会話できればいいと思うのだけれど、残念ながらあたしにできるのは、アイビーとの会話だけ。それと、だれかの恋をかなえることくらい。まだ休み時間だったから、すぐにメールの返信を返した。


[アイビーがモテすぎて、ちょっとからまれただけ。あたしは大丈夫なんだけど、ふでばこを壊されちゃって、ごめんなさい]

[ユイナがあやまることはないでしょう。だいたいの把握はできたわ。明日の放課後ね。絶対に行くからね]


 ふだんはほわほわしているのに、こんな時のママは、なぜだかすごくたよりになる。あたしが泣きそうになって、目を潤ませていたら、アイビーから言葉が送られてきた。


『おい、おれがモテすぎっていうのは、ちょっと言いすぎだろう?』

『だって、本当のことだもん』


 そんなわけで、ママと連絡は取れた。安心したところで、ゆっくり席に着く。するとミチルちゃんが近づいてきた。


「お母さん呼ばれたんだって? あの三人、本当に迷惑だね」

「まぁ、でもあたしもアイビーと仲良くしすぎちゃったかもしれないなって、反省してるんだ」

「そうだよねー。かんちがいされたくない相手って、いるもんねー」


 ミチルちゃんはからかうような目であたしを見た。親友のミチルちゃんには、あたしの黒田くんへの想いは筒抜けになっているみたい。


 それなのにあたしは、ミチルちゃんの好きな人を知らない。いや、ひょっとしたら井川くんなのかもしれないけど、まだはっきりと聞いたわけじゃないからわからない。でも、もしミチルちゃんに好きな人がいるのなら力になりたい。だれかの恋をかなえるのなら、ミチルちゃんがいい。


「あ、そうだ。ミチルちゃん、今日の放課後あいてる? 大事な話があるんだけど」


 もうこうなったらぐずぐずしていられない。はっきりと申し出れば、ミチルちゃんにかんちがいされて、おおついに告白かー、なんて茶化されちゃった。


「あたしじゃなくて。ミチルちゃんの話を聞きたいの」

「ぼくの話? うーん、どうしようかなぁー」


 じらすわけでもなく、ミチルちゃんは口ごもった。そうだよね、恋の話って、しにくいよね。でも、だからこそ、あたしにだけは話してほしい。


 しばらくすると、ミチルちゃんはあきらめたように降参のバンザイをした。


「オッケー。話、聞いちゃってくれる?」

「もちろんだよ」

「アイビーは抜きだからね」

「も、もちろんだよ?」


 ミチルちゃんの中では、アイビーはあたしの保護者のような印象を持たれているらしい。


 そこでまたチャイムが鳴った。この話はいったん一区切りついた。


 でも、アイビー抜きで上手に話せるかな? ううん、昨日まではアイビーの存在さえ知らなかったんだから、なんとかなる。そう思うあたしの頭の中に、アイビーの声が響いた。


『いいか? 十字架は絶対にはずすんじゃないぞ?』


 わかってるって。あたしが天使だってばれちゃったら、人間界にいられなくなっちゃうもん。それどころか、どうなっちゃうかもわからないし、やっぱりこわい。


 あたしはブレザーの上から十字架をおさえて気持ちを落ち着かせた。


 つづく


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