第20話 いじわる三人組

 教室にもどると、例の三人組がにやにやして待っていた。


「どうしたの? 天羽さん」

「ネックレス没収されちゃった?」

「やーだ、かわいそう。あっははははっ」


 いじわるな言葉に答えてあげるのを不満に感じて、あたしはなにもしゃべらなかった。


 ちょうどその時、いつのまにか谷川先生が教室をのぞきこんでいた。


「おい、おまえら。三人な」


 先生の言葉に、クラスのみんなが振り向いた。先生は、いじわる三人組に向かって話しかける。


「おまえら、天羽のふでばこをこわした件で親呼ぶから」

「えーっ!? そんなのひどいわ」

「そうよ、全部天羽さんが悪いのに」

「ネックレスなんかしてくるからよっ」

「文句言うなら両親を呼ぶことになるが? どうする?」


 三人組は眉を釣り上げて文句を言うけど、いまさらどうすることもできない。それもこれも、勝手に嫉妬してふでばこを壊したあなたたちのせいよっ。でも、どうしてだろう? ふでばこくらいで親を呼ばれるのって、なんだか少し嫌な感じがする。


「あの、先生」


 あたしの声はのどにはりついたみたいにかさかさだったけれど、勇気を出して言ってみた。


「たかがふでばこなので、そこまでしてくれなくてもいいです」

「そぉーよねぇー」

「たかがふでばこですものねー」

「思い上がりよねー」

「思い上がってるのはおまえらの方だぞ。いいか、これからこのようなもめ事を起こしたら、すぐに親を呼ぶからみんなも覚悟しておくように」


 ちょっときつい口調の谷川先生に、みんなはーいとだるそうな返事をした。


「よろしい、次の授業の準備をしなさい。それから三人は、天羽にあたらしいふでばこを買うか、お金を渡すかどっちかにしなさい。決まったら一度おれに相談するように。では」


 言うだけ言うと、先生は教室から去って行った。


「まったく、おまえらのせいでおれたちまでとばっちりじゃねぇーかよっ」


 このクラスで一番やんちゃな男子が三人を責めると、そうだそうだと、声がふくれあがった。


「ちょっと待ってよ。だって、元はと言えば天羽さんが生意気だからいけないんじゃない」

「生意気ってなに?」


 それまでむすっとしていたアイビーが、急に立ち上がって、三人につめよった。


「年上の先輩が言うならともかく、おなじ学年でおなじクラスなのに、生意気ってどういうこと?」

「だって、ネックレスなんかしてるじゃない」

「あれはお守りだと言っているだろう? ユイナは信心深いんだ」

「そんなことないわよっ!!」


 三人は自信に満ちた口調でつづける。


「天羽さんがお祈りしているところなんて、見たことがないもの」

「本当に祈ることだけが信心の基準なのか? 残念ながら天羽は仏教だがな」

「じゃ、どうして十字架なのよっ!?」

「それは、ばぁーさんがキリスト教だったからだ。ただそれだけのことで目くじら立ててさわいでるおまえらなんか、おれの親衛隊だなんてみとめてやらない。できることならおれの視界から消えてくれ」


 思いがけない強い口調に、三人は言葉を失いしゃくりあげて泣き始めた。


「もぉー、全部天羽さんのせいなのにぃー」

「あと、おれの宗派ではおまえらの誰のことも好きになってはいけない戒律かいりつがある。おれの彼女になろうだなんて、思い上がるな」


 アイビー、言い過ぎだよ。もういいよーって思ったけど、アイビーは三人をにらんだままだった。


「わかりましたぁー。三人でお金出すから好きなふでばこを買ってくださいー」

「それはことわるよな? ユイナ」


 ふいにアイビーが三人の申し出をことわった。どうして?


「こいつらから金もらっても、ふでばこを買ってもらったとしても、その後親に泣きつくだろ? ユイナのせいでお金取られたって。そういうのは嫌だから、やっぱり親を呼んでもらうよう、谷川先生にかけあってみる」

「そんなっ。山田くぅーん」

「あと、もう一度言うが、今後一切おれの視界に入るな。ユイナにもなにかしたらぜったいにゆるさないからなっ」


 わわっ。アイビーそれは言い過ぎだよぉ。でも、たしかにこの三人に買ってもらったふでばこなんて、使いたくはないかもしれない。


「はーい、席についてくださーい」


 チャイムが鳴ると同時に、英語の先生が入ってきて、この話は中断された。ささくれた雰囲気だったから、ちょうどよかったかもしれない。


 つづく

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