第18話 黒田くんとの出会い
黒田くんと出会ったのは、中学の入学式から一週間ほど経った頃だった。
学校の帰りに、中年のおばさんがあわてていて。よく見ると、フレンチブルドッグの後ろ足がドブ板に挟まった状態になっていた。
どうしてそうなっちゃったのかはわからないけれど、たすけたくてもあたしじゃ力になれなくて、ワンちゃんを支えたり、声をかけたりしているところに、黒田くんがあらわれた。
「なにしてるの?」
透明感のある黒沢くんのハスキーボイスに、こんな状態であるにもかかわらずときめいてしまった。
「なるほど、挟まったんだ。悪い、天羽。カバン持ってて」
言われて初めて、おなじクラスの男の子なんだということを知った。あたしにカバンを渡すと、黒田くんは、ワンちゃんから目を離さずに、ドブ板をえいっと持ち上げた。おばさんに抱えられていたワンちゃんは無事救出されて、そしてその時、黒田くんはとってもさわやかに笑ったのだった。
「よかったな。おばさん、一応獣医さんに連れて行って診てもらって。じゃ」
言葉短く言うと、黒田くんは、手をはたいてあたしからカバンを受け取ると、なにごともなかったみたいに背を向けた。
「ふぅーん、やるじゃん。黒田 ルウト」
「えっ!? ミチルちゃん!? いつからいたの?」
「ドブ板が持ち上がったあたりかな。なにしてるのかと思って」
そして、ミチルちゃんは意味ありげに笑ったのだった。
そう、この瞬間、あたしは恋に落ちていた。ダジャレなんかじゃなく、本気だ。だってこんなに胸がドキドキしてたのは、この時がはじめてだったから。
あたしは黒田くんのやさしさと、その笑顔をもっと見たいと思った。だけど、クラスの中で黒田くんはちょっと浮いた存在だった。本当はあんなに素敵なのに、もったいないな。
それにしてもなんで、あたしの名前を知っていたんだろう?
「
「み、ミチルちゃんっ!?」
教室でぼんやりしている黒田くんを見ていたら、ミチルちゃんに話しかけられておどろいた。
「でもさ、親が私立の学校に入れてあげなかったんだって。庶民の暮らしを勉強しろとかでさ。多分、このクラスの生徒の名前なんて、余裕で言えると思うよ」
「そ、そうなんだ。あはっ。やっぱりすごいなぁ、黒田くん」
そこでミチルちゃんが深いため息をついた。
「まったくね。人生ってままならないね」
「ミチルちゃん?」
それ、どういう意味?
気がついたら教室を出て行った子たちも戻ってきて、先生が入ってきた。
「みんな座れー」
そう言うなり、担任の谷川先生はあたしをにらんだ。え? なに?
「天羽、後で職員室に来い」
「え? あの、どうして?」
いきなりの展開に胸がどぎまぎしてきた。なにかよくないことが起こりそうな予感がする。
どうしよう!?
つづく
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