第10話 天使の事情
「天使ってのは、だいたい生まれた時からおれみたいに姿を自由に変えることができる。だが時々、人間とおなじように赤ん坊から育っていくやつもいると聞いたことがある」
アイビーはさらに深刻な表情であたしを見つめた。
「そんな時は、教育にきびしい人間に、立派な天使として育ててもらうのだという。もしそれが本当だとすればユイナ、おまえの羽根は、そいつにねらわれている可能性があるな」
「えっ!? あたしの? でも、どうして?」
腕を組んだアイビーは、じっとあたしの目を見る。なんだかドキドキしちゃう。
「夢の中で黒羽根の天使と目があったんだろ? それって、おまえの姿が見られてたってことじゃないのか?」
「そんな……。あたしの羽根を奪われちゃったら、パパを解放することができなくなっちゃう!! それだけはだめぇー」
見境なく叫んだあたしを、ママが必死に胸に抱きなぐさめる。ぐすん。ママが一番泣きたいだろうに、やさしいんだから。
「となると。作戦を変えた方がいいな」
「作戦って?」
「いいか? 落ち着いてよく聞けよ? おまえすーぐ早とちりするからな」
アイビーはあたしが落ち着くまで少し待ちながら、寝癖のついた金髪をピンと伸ばした。
「これからおれは、おまえの家に
「念じる? どうして?」
「おれはおまえの守護天使だ。おまえの身に危険がせまっているとなれば、おれが人間の姿になって、おまえを守ることができる。そのためにはユイナ、おまえの強い願いがないとできないんだ」
あたしのため?
アイビーがあたしを守ってくれるの?
本当に?
「大丈夫だ。おまえならやれる」
「うん、やってみる!!」
あたしは目を閉じて、山田 アイビーは遠い親戚の男の子で、現在は親の都合でいっしょに暮らしている、と何度も頭の中で繰り返した。
ふいにあたしの体から、淡い光が放たれる。おどろいて目を開ければ、その光はアイビーへと向かって行った。
「平気だ。つづけてくれ」
アイビーにうながされて、おなじことを念じる。
やがて、光が消え失せて、アイビーがおだやかにほほえんだ。その頭に輪っかはなく、背中にも羽根はない。
「え? うそ?」
「できたんだよ、ユイナ。まぁ、いつでも天使にもどることもできるがな」
あたし、一時的とはいえ、アイビーを人間にしちゃったの!? すごーいっ!! こんな能力があったなんて、すごくおどろいちゃった。あたしって本当は、まだまだ可能性が秘められているのかもしれないっ。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます