第94話 灰と銀
白アリから黒アリスちゃんへと視線を移す。
こちらもアンデッド化に成功したようだ。
いつの間にか首のつながったフェニックスが黒アリスちゃんに頭を垂れている。
アンデッドのフェニックス。
そこはかとなく不自然だ。
その
え?
消えた?
アイテムボックス?
収納できるのかっ!
どうやら、黒アリスちゃんがアイテムボックスへ収納をしたようだ。
SFなフェニックス、何て便利なんだ。
いや、レベル5のなせる技とはいえ、闇魔法が便利すぎる。
俺も欲しいな、今度、女神にねだってみよう。
再び白アリへと視線を戻す。
モンスターテイム レベル5か。さすがに女神が後付けでくれたスキルだけのことはある。フェニックスまでテイムできるんだな。
フェニックスのテイムはモンスターテイム レベル4でも難しいと聞いていたが、一発で成功か。
少なくとも、今の俺でも白アリ同様、フェニックスのテイムはできるんだよな。
もう一羽探そうかな、フェニックス。
「ほらっ、大丈夫だから。怖くないから、ね?」
何だ?
後ろから、妙に優しげな白アリの声が聞こえてくる。
振り向くと、そこには、黒い亜空間がぽっかりと口を開けている。
「ほうら、入ってごらんなさい。広くて気持ち良いわよ、きっと」
ぽっかりと空いた、黒い亜空間の前で、白アリが慈愛に満ちた笑顔で、フェニックスの頭を愛しげに撫でている。
きっと、じゃないだろうがっ!
フェニックスというのは、やはり相当に知能が高いんじゃないだろうか。
簡単に
目の前に出現した亜空間――アイテムボックスへと続く空間の裂け目を前にして、自身の未来を想像しているのだろう。
涙目にも見えなくもない、怯えた瞳で嫌々をするように首を横に振っている。
もしかしたら人語を解するのかもしれないな。
いや、神獣じゃないしそれはないか。
しかし、白アリの方はフェニックスの反応など意に介さずに、慈愛に満ちた笑みをたたえて、なおも黒い亜空間へと
タナトスみたいなヤツだな。
確か、死者の国へと
「生きたままアイテムボックスに入る訳がないだろう」
怯えたフェニックスに同情したわけではないが、フェニックスを
「やっぱり無理かなぁ。残念ね」
白アリがちょっと拗ねたようにフェニックスの顔を覗きこむ。
間髪を容れずにあさっての方を見るフェニックス。
尚も見つめる白アリ。
微動だにしないフェニックス。
うん。
やっぱり、フェニックスっていうのは、俺の予想以上に賢いのかも知れない。
「目的の魔物は入手できたんだ。じゃあ、次に行こうか」
視線をそらせるフェニックスのその視線の先へと、嫌がらせのように後を追い掛けて移動をする白アリに声をかける。
黒アリスちゃんとメロディは既に移動の準備を終えている。
マリエルは俺のアーマーの中から這い出てきて、しきりに首を傾げながら弓矢の点検を行っている。
そういえば、先ほどの戦闘で一矢も当たらなかったもんな。
いや、それ以前にフェニックスに届く前に矢が燃え尽きていたな。
「そうね、じゃ、次に行きましょうか」
そう言い終えるやいなや、白アリはにこやかにほほ笑みながら、空間転移で移動をした。
もしかしなくても、フェニックスを入手できて上機嫌なのか?
俺たちも急ぎ白アリの後を追う。
◇
先ほどとはうって変わって、岩盤は少なく草木が多い。密林とまでは言わないが、草木がうっそうと茂っている。
今回も、転移前に先行させて視覚と聴覚を転移させてみた。
視覚を上空――草木が多いため上空といっても二十メートルほどのところだ。さらに聴覚をターゲットの耳の高さ、五十センチメートルほどのところへと、それぞれ飛ばした。
結果は上々だ。
転移後、空間感知を発動させて、即座に周囲の様子を探る。
俺だけではない。マリエルを除く全員が空間感知を発動させている。加えてマリエルの暗視スキルと遠見スキルがある。近距離での索敵戦ならそうそう遅れはとらないだろう。
「いませんね、もう少し奥へ移動しますか?」
黒アリスちゃんがまとわり付く小さな虫を風魔法と土魔法で追い払いながら、周囲を見渡している。
風魔法で虫がバランスを崩したところに、砂粒のような石でできた弾丸で撃ち落としている。
本当に器用だな。
あれは俺には無理だ。魔力操作か、あれも是非とも欲しいスキルだな。
「インフェルノ、上空で哨戒任務に就きなさい。何か見つけたら知らせるのよ」
白アリが先ほどテイムしたフェニックスの頭を右手で撫でながら、左手で上空を指差す。
フェニックスは短く鳴くと上空へと飛び立ち大きく旋回を始める。
もう、名前をつけたのか。何だか物騒な名前だな。
それにしても、随分細かい指示を出していたがちゃんと理解できたのか?
さすがにあそこまでの指示には疑問が残る。
疑問は残るが、指示を出している本人は満足顔なので、それについて触れるのはよそう。
「さぁ、これで上空は大丈夫ね。奥へ進みましょうか」
白アリはそう言うと、俺たちの反応など気に掛ける様子もなく、意気揚々と先頭を進み始める。
黒アリスちゃんがそんな白アリの後ろ姿を追いながら、俺へと振り向く。
俺は軽く左手を挙げて黒アリスちゃんの視線に応え、メロディと共に移動を開始した。
しばらく進むと空間感知にいくつもの魔物が引っ掛かる。
グレイウルフの群れだ。
グレイウルフはテイムの対象としては割りとオーソドックスな魔物だ。
行軍中の軍団の中でも何匹も目にしている。
知能は高い。地球のサル以上の知能がありそうだ。
戦闘力もそれなりにあり、属性魔法も使ってくる。個体によっては複数の属性魔法を操るものもあるそうだ。
ただし、もともとが群れで戦闘をする魔物のためか、単体で戦闘させるよりも、主人のサポートをさせるようなことが多い。
「見つけたわ、何か数が多いわね。こんなには要らないなぁ」
白アリもグレイウルフの群れを捕捉したのだろう、まるで群生している果物を発見したようなのりだ。
「待ってください。さらに西の方にもうひとつ群れがいます」
白アリが歩く速度を上げたところで、白アリを推し止めるような強い口調でメロディから報告が入る。
メロディには精度は低くても良いので、広範囲の索敵をするように指示を出していたが、その外周部分に新たな群れが引っ掛かったようだ。
メロディの報告に、俺も空間感知の範囲を広げる。
ウルフっぽいのがいた。
数は最初に引っ掛かった群れよりも少ないが、個体が大きいんじゃないか? これ?
グレイウルフじゃない? 個体の大きさから考えて、シルバーウルフかもしれないな。
「白アリ、黒アリスちゃん。メロディが捕捉した群れだが、シルバーウルフかもしれない。どうする?」
メロディの言葉に足を止めた二人に向かって問い掛けた。
白アリと黒アリスちゃんが、足だけでなく全身を硬直させる。
その硬直に続いて、二人がほぼ同時に口元を緩めて、お互いに顔を見合わせた。
傍から見ているともの凄く妖しい。
白と黒のカラーリングが、互いに反する二人の美少女がほくそ笑み、恍惚とした表情で何やら思いを巡らせている。
あれ? おかしいな。
妖しいどころか、男なら目を奪われるようなシチュエーションなんだがな。
まぁ良い。それはさておき、二人の気持ちは分かる。
グレイウルフと違い、シルバーウルフは希少種だ。もちろん、希少なだけでなく個体の能力も高く、属性魔法も複数持つも確率が高い。
テイムするなら、ありふれたグレイウルフよりも希少で能力の高いシルバーウルフをテイムできる可能性がでてきたのだ。
それは喜ぶよな。
今、二人の頭の中では、希少種であるシルバーウルフを従えた自分たちの姿が浮かび上がっていることだろう。
さて、グレイウルフはパスしてシルバーウルフ狩りか。
数は七頭、俺たちなら問題ないだろう。
「なぁ、シルバーウルフは全部で七頭いるんだけど、生け捕って持ち帰ったら高値で売れるんじゃないか?」
夢見心地の二人を現実に引き戻すように利益に直結する提案をする。
モンスターテイマーは結構な数が軍団内にいたはずだ。
特に、後から合流した王国軍にはオーガをテイムしている人もいた。
フェニックスと違い、シルバーウルフはモンスターテイム レベル2程度でもテイム可能だったはず。
レベル2でテイムできる魔物の中では最強クラスだ、需要は間違いなくある。
「却下、皆が持っていたらつまんないじゃないの」
「それはダメです」
白アリと黒アリスちゃんの、俺の意見に否定する言葉が重なる。即答であった。
気のせいか、二人の目がちょっと怖い感じがする。
しかし、現金よりも虚栄心か。
「そ、そうか。分かった。じゃあ、シルバーウルフを狩りに行くんで良いんだよな」
何が「分かった」のか自分でもよく分からないが、ツイ、口をついて出てしまった。
「ええ、逃げられないうちに行きましょうか」
「場所の誘導お願いします」
可愛らしい笑顔に戻った二人を誘導しながら、シルバーウルフの群れへ向かって移動を開始した。
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