オリサソの波動を、感じろ(強制)

「うん? うん……う~ん……?」


 ――やっぱりダメだった。出演者全員がそのマシュマロを見た時にそう思った。

 フリーダム過ぎるマナに任せたら、絶対に誰かが犠牲になるのだと……そのことを理解しながら、枢たちは今回の犠牲者ことオリオンへと合掌を捧げる。


 冷静沈着を絵に描いたような性格をしている彼でさえ、この状況には困惑しているようだ。

 口から飛び出した呻きがその心情を表しているなとみんなが思う中、マナは平坦な声で彼へと質問する。


「さあ、お答えください。大丈夫、特に深い意味はないと質問者さんも仰ってますし、問題ないですよ」


「……ペットの話だよね? それにしたって選択肢がおかしいとしか思えないけど、これはペットを飼うならどっちにするって話だよね?」


「オリオンさんがそう思うのならそうなんじゃないですかね。オリオンさんの中ではな」


【そういえばさっきサソリナいたよな……見られてるぞ、オリオン!】

【同期の炎上をネタにするマナちゃんの機敏さにはある種の尊敬の念を送らざるを得ない】

【泣くなよ、オリオン】


 深い意味はないと書いてあるものの、それは俗にいう「押すなよ! 絶対に押すなよ!」と同義だ。

 質問者も出演者もリスナーたちも、全員がこの質問の裏に隠れた(隠れているとはいってない)本当の質問に気付いている。


 しかしまあ、それを馬鹿正直に答えたら炎上は確定するし、そもそも正直に答えずともどちらかを選んだ時点でここまで話題に出てきたユニコーンこと厄介ファンが突撃してくるわけで……オリオンには逃げ道なんてものは存在していないということだ。


「まあ、ペットとして飼うなら犬でしょ。蠍は怖いもの」


 それでもどうにかペットの話として場を流そうと、オリオンが涙ぐましい努力を見せる。

 だがしかし……そんなことで避けられるほど話は簡単ではないし、そもそもそういう逃げの手はツッコミを呼ぶということを彼はわかっていなかった。


「へぇ~、蠍よりも犬の方が好きなんですか。特に深い意味はありませんが、意外ですね」


「あ~……気持ちはわかりますけど、ここは腹を決めて蠍って言った方が傷が浅かったと思いますよ?」


「うん、まあ、そう言わざるを得ないですし、仕方ないですけど……ね?」


「……どうしてこんなに責められなくちゃいけないのかな? 僕、何か悪いことでもしたかい?」


【逃げるなぁぁぁ! 戻ってきて戦えぇぇえぇっ!】

【漢じゃあねえなあ、漢じゃあねえよ……】

【ふ~ん? へぇ~? ほ~お?@左右田紗理奈】


「ねえ、どうして左右田先輩まで乗っかって僕を責めてくるわけ? ここは静かにして、嵐が過ぎ去るのを待つのがベストでしょ!?」


【左右田先輩だなんて他人行儀な呼び方して……二人きりの時はマイスイートハニーって呼ぶくせに!!@左右田紗理奈】

【上も下もオリオンを燃やそうと必死だなぁ!(火炎瓶を作りながら)】

【そういえば神話のオリオンって蠍に56されたんだっけ? 伝承通りの展開だな!】

【マナちゃんもそうだがサソリナもそこそこ無敵で草しか生えねえwww】

【おっかしいなぁ……? な~んか変だよなぁ……?】

【もうサソリナもここに加わって一緒に配信しろよwww】


 少し前に交際疑惑が出たお陰で一緒にプチ炎上した紗理奈の悪ノリによって、どんどん追い詰められていくオリオン。

 画面の前で彼が引き攣った表情を浮かべている様を想像した枢がその冥福を祈る中、芽衣がそっと助け舟を出す。


「ま、まあ、そういうCP好きの方々を喜ばせるのもいいですけど、ふざけ過ぎると本気で炎上しちゃいますからね。オリオンさんを弄るのはここまでにしましょうよ。ね?」


「そうですね。流石におふざけが過ぎました。マナ、反省」


 ここまでのやり取りを行き過ぎた冗談として解決しようという芽衣の助け舟に同意するマナ。

 ……が、しかし、彼女がこんなに簡単に止まるはずがなくて……?


「それはそれとしてオリオンさん、左右田先輩関連と思わしきこんなマロが届いていましたので、是非とも音読……というより、詠唱をお願いします」


「今、終わる流れだったよね!? あれかな? マナさんは僕が嫌いなのかな!?」


【三期生不仲説、再浮上】

【フェイントをかけてからの二発目、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね】

【この子犬には躾が必要ですね、これは……】


 ブレーキが壊れた子犬ことマナ・ハウンドはそう易々とは止まらない。

 むしろエンジンを全開にして突っ込む彼女は、また新たなマシュマロ(クソマロ)を画面に表示し、リスナーたちの笑いを誘う。


【『体は外骨格で出来ている 


 血潮は毒で心は硝子


 幾たびの修羅場を越えて不敗


 ただ一度の敗走もなく、


 ただ一度の勝利もなし


 担い手はここに孤り。


 机の丘で文を鍛つ


 ならば、我が生涯に意味は不要ず


 この体は、


 巨乳の蠍で出来ていた』


一緒に遊んでた先輩に当てはまります?】


「……ねえ、やっぱりもう配信終わりにしない? すごく帰りたいんだけど……」


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