三期生だけの、形を作ろう

「私は……お二人のことだけじゃなくて、自分自身のこともよくわかっていません。ただ、お二人と友達になりたいって思ってるってことは間違いないです。だから、その……ダメですね。こういう時に限って、言葉が出てこないです」


「大丈夫、焦らないで。僕たちは轟さんの話、最後まで聞くよ」


 言いたいことがあるのだが、それを上手く言葉にできない。

 普段は余計なことまで言ってしまうというのに、こういう時に限っておしゃべりな口が動いてくれないと嘆く紫音へと、優人が落ち着かせるための言葉をかける。


 何を考えているかわからない彼女だからこそ、何を考えているのかを教えてほしい。

 自分たちへの想いも、彼女が抱えていることも、思っていることも……全てを聞きたいと真っ直ぐに見つめながらの言葉を受けた紫音は、たどたどしくも言いたいことを言葉にしていった。


「……言いたいことをなんでも言い合えるだとか、お互いの夢を応援できるだとか、そういうふうになりたい。どうやったら友達を作れて、どこまでいったら友達だって言えるのか、まだわからないですけど……だからこそ、まずはこうして同期になれた二人と友達になりたい、です……!」


「まずは二人から、か……そうだね。とても素敵な考え方だと思うよ」


「そう、ですかね? お二人を利用してるみたいで、ちょっと良くない言い方かもしれないなって思ったりしたんですが……」


「そんなことないさ。信頼している相手だからこそ、そういうふうに思える。少なくとも、今の轟さんは自分の一番近くにいる存在は僕たちだって思ってくれてるってことがわかって嬉しいよ。それに、同期ってそういうふうにお互いに協力し合っていくものだしさ。利用されてるだなんて思わないよ」


 『隗より始めよ』というわけではないが、紫音がまず優人と伊織と最初の友達になりたいと思うのは、彼らが今、自分の一番近くにいる人間だと思っているからなのだろう。

 それはきっと、同期として夢を叶える第一歩を一緒に踏み出すことに他ならないと思いながら、今度は優人が口を開く。


「まずは二人から……っていうのなら、僕もそうだ。先にこの世界に飛び込んだ人間としてでも、プロデューサーとしてでもなく……同期として、轟さんと臼井さんを主役にしてみたい。だからもっと二人のことを知りたいなって、そう思うよ」


 沢山の主役を生み出したいという夢を抱き、自分は【CRE8】にやって来た。

 一番最初に自分が演出する舞台に立ってほしいのは、自分と共に一歩を踏み出した同期であってほしいと……そのためにも彼女たちのことを知って、その魅力を引き出せるようになりたいと言った優人が伊織を見つめる。


 二人の話を聞いた彼女もまた、おずおずとしながらも自分の意思をはっきりと言葉にしていった。


「わ、私は! ……誰かの心を明るくしたい、誰かに憧れられるような人間になりたいって、そう思ってこの世界に飛び込みました。でも、今の私はダメダメで、自分のどんなところがいい部分なのかもわかってなくって……一人じゃ、何もできません。だけど、二人が一緒に歩いてくれれば、こんな私でも変われると思うんです。狩栖さんが私の魅力を引き出してくれたなら、紫音ちゃんと一緒に何かを生み出すことができたなら、私はきっと自分の夢を叶えられる。そう思います。私が二人に何ができるかは、わからないですけど……」


「伊織ちゃんにはいいところがいっぱいあるって、私はそう思います。ダメダメなんかじゃあないって、そう思ってますから」


「周囲にコンプレックスを抱きがちってことは、逆に言えば周りの人間のいいところを見つけ出すことが上手いってことでもある。轟さんの言う通り、臼井さんはダメダメなんかじゃあないと思うよ」


「ありがとう、ございます……」


 同期からの真っ直ぐな褒め言葉に顔を赤くした伊織がか細い声で感謝を述べる。

 たった一歩、ほんの一歩だけかもしれないが、三人にとっては大きな一歩を踏み出したところで、息を吐いた優人が口を開いた。


「少しずつ、僕たちのペースで歩いていこうか。急じゃなくていい、のんびりでもいいから、お互いのいいところを見つけ出して、理解し合って……僕たちなりの同期としての関係性を築いていこうよ」


「一期生の先輩とも、二期生の皆さんとも違う。私たち三期生、『トライヴェール』だけの関係……答えがないからこそ、この三人で見つけ出してみたいです」


「とても素晴らしいことだと思います。この調子で相互理解を深めましょう。差し当たり、まず――好きなピザの具からっていうのはどうでしょうか?」


 真面目でしんみりとした空気が漂う会議室に、不意にぐきゅ~という緊張感のない音が響く。

 それが美味しそうなピザを目の前にして空腹の限界を迎えた紫音の腹の虫が鳴る音だと気付いた優人と伊織は、ぷっと噴き出すと共に彼女へと言った。


「そうだね。このまま話すばっかりじゃあ折角の料理が冷めちゃうし、食べながら話をしようか」


「紫音ちゃんのいい意味で空気を読まないところ、私も好きですよ」


「ひゃっほう、ぱーちータイムだぜ~。とりあえず肉マシマシのやつからいきましょう。犬は肉食なのです、わんわん」


「私はマルゲリータが好きかな……シンプルで飾りっけないけど、すごく美味しいよね!」


「シーフード系もいけるよ。肉系も好きだけど、僕はこっちも結構好みかな」


「なるほど、狩栖さんは海老やら蟹やら蠍やらの甲殻系が好み、と……」


「そこに明らかに食材として適してない蠍の名前が挙がった理由を教えてほしいな。いや、聞くまでもなくわかってるんだけどさ」


 あはは、と三人の楽し気な笑い声が部屋の中に響く。

 そこからは楽しく、明るく、食事と会話を楽しんだ三人は、この騒動を経て、自分たちの関係が良い方向に変化したことを感じると共に、暗くなっていた気持ちを前向きにして、歩んでいこうと心に決めるのであった。

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