三期生、カミングスーン!
「早矢の言う通りだな。そういう会を開くのも、気持ちを伝えるための手段の一つでしかないってわけだ。何よりも大事なのはハート……これから仲間として一緒にやっていこうっていう思いってわけだ」
早矢の意見を肯定するようにそう述べたマコトもまた、うんうんと頷いてみせる。
ロックンローラーらしく、小手先の行動よりも大事なのは心の方だという彼女の言葉に他のメンバーも頷きを見せる中、おせろが仲間たちへとこう問いかけた。
「みんな、三期生の人たちが入ったら何をしてみたい? 聞かせてもらっていいかしら?」
「三期生のみんなとしてみたいこと……だったら、一緒に歌ってみた動画とか出してみたいさ~!」
「ボクは……やっぱり一緒にゲームをしたいかな。いつかは箱内でゲーム大会とかやってみたいし、主催もしてみたい。人数が増えたら、そういうこともできると思うから……」
「自分は新衣装とかの相談に乗ってあげたいっすね~! 着たい服とか着けたいアクセサリーを作って、頭の中の想像を形にしてあげられるのが自分の強みっすし! 感謝されるのも嬉しいですもんね!」
「人数が増えればキャラも増える! そうなったら声劇の脚本も書きやすくなる! ってことで、あたしは大規模な声劇コラボとかやってみたいかな!」
「一緒にっていうなら、いつかみんなで3Dライブをしてみたい! 一期生、二期生、三期生……ううん、その後の後輩たちもみ~んな集まって、大きな会場でライブをやるの! そうすることで私たち自身も【CRE8】も成長したんだなって、そう実感できると思うからさ」
「私は……取り立ててやりたいことがあるってわけじゃないかもしれません。でも、同じ事務所の仲間として、仲良くできたらいいなって思います。私が先輩たちに優しくしてもらったみたいに、後輩さんたちにも優しくしてあげられたらいいな、って……」
「みんな、やりたいことがあるって感じでいいですね。私もなんか考えておかないとな~……」
たらばの回答をきっかけに、次々とおせろの質問に答え始めたメンバーがわいわいと賑やかに話をしていく。
そんな中、会話を見守っていたマコトが同じく輪から外れて見守りに徹していた枢へと、おせろと同じ質問を投げかけた。
「枢、お前はどうなんだ? 三期生と一緒にやりたいこととかあるのか? やっぱり、男同士でコラボがしたい、とか?」
「いえ、俺は……夢を応援したいですかね。【CRE8】は夢を追う人たちが集まる事務所。三期生も俺たちと同じように夢を持って、この事務所の仲間に加わると思うんです。だったら俺は、その夢を応援したい。それが俺の夢でもありますから」
「……格好いいね。ホント、いい男だよ、お前は」
「……あざっす」
気恥ずかしそうに笑いながら、頭を下げて自分を褒めるマコトに感謝を述べる枢。
二人がそんな会話を繰り広げていることを知ってか知らずか、話をまとめた早矢が仲間たちの前でこう宣言する。
「とりあえず、歓迎会に関してはやるけど詳しいことは未定ってことで! どんちゃん騒ぎするのは三期生のみんながどんな子かわかってからにしよう!」
「そうしよう、そうしよう! やっぱり本人の意思が大事だよね! にゃっはっはっはっは!」
「……なんか、俺が最初から言ってた結論に達してません? 大丈夫? この話し合い、意味がなかったとか言われません?」
「気にすんなよ。三期生を歓迎する気持ちが大事ってことがわかったんだから、それでよしとしようじゃないか」
意味がなかったようでそうでもない、そんな結論を出した一同がどこか愉快気に笑う。
だがしかし、そんな中でも普段と全く変わらない言動をする者もいるわけで――?
「大事なのは歓迎する気持ち。愛を伝えるハート。ということは……相手の緊張を解すためのセクハラ……じゃなくって、ボディタッチも正当化されるはず! よっしゃ! 我が世の春が来た! とりあえず、芽衣ちゃんで練習させてもらおう!! とうっ!!」
「ひゃわわわっ!? きゃ~っ!!」
そんな馬鹿みたいな論理飛躍の果てにセクハラを正当化した乙女が、どこかで見たような動きで芽衣へとダイブする。
そのまま彼女を押し倒し、欲望の限りを尽くそうとした彼女であったが……もちろん、そんなことが許されるはずもない。
「ほい、枢。ハンマー用意しておいたぞ」
「助かります。いいっすね、アニメってこういう表現が許されて」
「オチがつけられるって意味でもありがたいよな。さてとっと……」
100tと書かれたハンマーを手に、スローモーションになっている乙女の前に立つ枢とマコト。
思い切りをそれを振りかぶった二人は、まるでバッティングセンターで飛んできた球を打ち返すような雰囲気を出しながら、大声で叫ぶ。
「「んなわけないだろうがっ!! この馬鹿!!」」
「ぎゃあああっ!?」
パリーンッ、という音を響かせながら事務所の窓を割り、外へと弾き飛ばされる乙女の悲鳴がこだまする。
こうして、三期生のデビューを題材とした今回のクリアニは綺麗なオチをつけると共に、終わりを迎えるのであった……。
――会議室の入り口、そのドアの隙間から覗く瞳が二つ。
どこか無気力さを感じさせる紫の瞳と、不安気な色を滲ませている赤い瞳が上下に並び、話し合いをする一期生、二期生を見つめていた。
片方は瞳と同じ紫の色をしたショートボブの少女。もう片方は髪色とは反した水色の髪をポニーテールにまとめた色々と大きな女性という、正反対のようで似た雰囲気を持つ二人が顔を見合わせる中、口笛のような音が響く。
その音に反応した二人が振り向いた先で、手招きをするように動く腕が大写しになる。
人差し指に銀色の指輪を嵌めているその手の持ち主の姿は描写されなかったが、その人物が二人に帰ろうと意思表示していることは見て取れた。
小柄な少女も、大きな女性も、輪郭は見て取れたが顔立ちや真正面からの全体像はまだ見えていない。
全く謎に包まれたままの三人目のメンバーも含め、ちらっと先出し情報としてクリアニに出演したこの三名……三期生のメンバーは、十数秒の出番を終えると早々に退場していった。
場面が暗転し、今度こそアニメが終わりを迎える中、棒読みにも近しいが独特の味を持つ少女の声がこの回の全てを表すような一言を告げる。
「三期生、かみんぐす~ん」
のんびりとしたその声が言った通り、【CRE8】に新たな仲間がやって来る日は、もうすぐそこにまで迫っていた。
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