これまでも、これからも
「あと数か月でデビューから一年、みんなでコラボするよね? オフでやるのは難しいかもしれないけど……全員集合で何かやるの、ファンのみんなも期待してると思うよ」
「そうだね。めでたいことだし、打ち合わせとかして何かやろうか。久々に五人でワレクラでもする?」
一月が終わって、冬も終わって、春が訪れて……そうなったら、自分たちもデビューから一周年だ。
記念グッズなんかも販売されるだろうし、二期生全員でコラボもしたい。年末年始とはまた違った忙しい日々がやってくるだろう。
でも、それを楽しみに思えていることこそがVtuber生活が充実している証なのかもしれない。
ファンたちを楽しませ、自分たちも楽しんで、そうやって幸せな日々を過ごしている今、Vtuberになって良かったと心の底から思える。
この気持ちを忘れないようにしながら、これからも頑張っていこうと思う零に対して、有栖はこう話を切り出した。
「そういえばだけどさ、くるめいももう少しで結成してから一年だよね? 何かする?」
「ん……言われてみれば確かにそうだね。そっちも期待してる人がいるだろうし、やるとしようか!」
「やった~! ……ふふっ! なんかあれだね。今の私、付き合って一年記念でどこか行こうよ~! っておねだりしてる彼女みたいだった」
「いいんじゃないかな? 有栖さんみたいなかわいい彼女のおねだりだったら、誰でもコロッと落ちちゃうだろうしさ」
無自覚に恥ずかしい会話を繰り広げながら、楽しそうに笑い合う零と有栖。
出会って、話をして、二人きりでコラボをしてからもうそんなに経つのかと思いながら、話を続けていく。
「何をしよっか? やっぱり二人でワレクラでもする? 何かMODでも入れて、ストーリーをプレイする……みたいな?」
「リスナーのみんなからマシュマロを募集して、雑談配信をするってのも十分にありだよね。いや、クソマロが送られてくるっていう心配はあるんだけどさ」
「あとは……今日みたいにオフコラボでもしちゃう? 何か食べながら、思い出を振り返っていく……って、それだと今日やったこととほとんど変わらないね」
「あはははは! でも、そういうのもありじゃない? 流石に季節柄、お鍋は食べられないけどさ」
「ふふっ! ……やりたいことがいっぱいあるね~。困っちゃうくらいだよ」
「そうだね……でも、いいんじゃない? 何もやりたいことがないよりかはずっといいよ。時間もたっぷりあるわけですし、二人でやりたいことをやっていけばいいんじゃないかな?」
右も左もわからずにデビューして、即座に大炎上を経験して……それからもう一年が経とうとしている。
その間に色々なことをしたが、Vtuber活動を続ければ続けるほどにやりたいことが増えてしまっていて、その欲望は止まることを知らない。
一年前、自分たちがこんなふうに楽しく活動を続けられているだなんて誰が思っただろう? 張本人である零や有栖ですら想像できなかったことだ。
一歩目を踏み出したその時、傍に居てくれた目の前の大切な人に様々な想いを込めた視線を向けながら……二人は、感情を乗せた声で言う。
「改めてだけど……これからもよろしくね、有栖さん。一緒に頑張っていこう」
「こちらこそよろしくお願いします。零くんにはいっぱい迷惑かけちゃうかもだけど……いつか、その恩を返せるように頑張るから!」
色んなことがあったと思う。だけど、それすらも凌駕するような面白おかしい毎日がこれからも続いていくはずだ。
思い出が色褪せることなんかない。これからもこれまでも、ずっと自分たちの心の中で眩く輝き続ける。
願わくば、その思い出の中には彼の、彼女の姿があってほしい。
いつかは終わりがやってくる日々だとしても、それまでは一緒に笑い合っていたい。
そう思いながら、お互いに気持ちを通じ合わせながら、話をしながら食べていたプリンの容器を空にした二人がそれをこたつの上に置く。
ぬくぬくとした温かさと、口の中に残る甘さと、じんわりと広がる心地良さに微笑みながら、二人は二言、三言言葉を交わした。
「くるめい一周年コラボ、何をするかはじっくり決めていこうか……焦る必要なんてないしね」
「そうだね……ここで決めなくてもいいよね。二人で話して、何をするか決めていこうか……」
あと数か月も猶予はあるし、焦る必要はない。ファンたちが喜んでくれるような楽しい配信をすることを目標に、二人で意見を重ね合わせていこう。
そう、一旦結論を出した二人は、小さく息を吐いてから視線を交わらせる。
お互いに頷き合い、両手を合わせて、タイミングを計った零と有栖は、同時に食事を終える挨拶を口にするのであった。
「「ごちそうさまでした!」」
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