お鍋を食べながら、楽しくお話を
挨拶をした後で箸を取り、早速出来立ての鍋を味わい始める零と有栖。
メインとなる豚肉を口に放り込んだ零は、程良い塩味と肉のうま味が合わさった抜群のお味に感動したように唸りを上げる。
「うんまっ!! 最近の鍋ってこんなにいい味が出せるようになってるんだ……! ちょっと感激かも」
「お肉も野菜も美味しいね! 私、これならいつもよりずっといっぱい食べられちゃうかも!」
小食の有栖も予想以上の鍋の味に驚いているようで、箸の進みもいつもよりずっと早い。
最近の鍋は進化しているなと思いつつ、零もまた彼女と会話しながらその味を堪能していった。
「あ、そうだ。お茶とか要るよね? 熱いもの食べてるわけだし、口の中を冷ますためにも飲み物が必要でしょ」
「そうだね。ごめん、気を遣わせちゃって」
「ううん、気にしないでよ。私が欲しいなって思って言ったことだからさ」
そう言いながら、コップを持ってきた有栖がそこにお茶を注ぐ。
何から何まで申し訳ないな、と思う零に対して、彼女はそこからも色々と世話を焼いてくれた。
「お肉、追加で買ってきてるから足りなかったら言ってね。ばんばんお鍋に投入するから!」
「ありがとうね。でも今は、とりあえず最初に入れたものを平らげちゃおうよ。減ってきたところで腹具合と相談して決めるってことで」
「うん、わかった。あ、そうそう。何かテレビでも見る? サブスクに加入したから、映画とかアニメとか色々見れるよ!」
「おっ、いいねえ。じゃあ、有栖さんの好きなドニャーもんでも見ようか!」
「むぅ……! それ、子供っぽいって馬鹿にしてるよね? 零くんめぇ……!」
「あはははっ! 違う、違う! 俺も好きだからさ、ドニャーもん。有栖さんと一緒に見たいって思っただけ!」
ぷくっと頬を膨らませて不満気にこちらを見つめる有栖へと笑顔で応える零。
ジト目で睨んでいた彼女もやがてぷっと噴き出すと、笑みを浮かべながらリモコンを操作し始める。
「テレビ版と劇場版があるけど、零くんはどっちが見たい?」
「テレビ版でいいんじゃない? 劇場版はそっち見るのに夢中になって鍋に火が通り過ぎちゃったりしたらマズいしさ」
「そうだね。劇場版の方は、ご飯を食べ終わってから見ればいいか」
「デザートもあるし、後片付けもあるもんね。色々終わってから、のんびり見る感じにしようよ」
……地味に食後も二人でお家デートを継続することが確定しているが、そこは気にしてはいけない。
無自覚にここまでできるのが、この二人の良いところであり、悪いところであり、てぇてぇところなのだから。
そんなこんなでテレビに青い猫型のロボットが眼鏡をかけた少年とドタバタ劇を繰り広げるアニメが流れ始める中、取り皿に二杯目の鍋をよそった零と有栖は楽しく会話を続けていく。
「それにしても本当にこのお鍋美味しいね! 冬に食べてるってこともあるんだろうけど、子供の頃に食べてたのとは大違い!」
「本当だね。俺もかなりびっくりしてるよ。どこのメーカーの製品だ、これ?」
「次に食べる時も同じシリーズのセットを買おうっと。でもその場合、また零くんと一緒じゃないと食べられないや。私、土鍋持ってないし」
「買えばいいじゃん。とは思うけれども、有栖さんが土鍋を買わないでくれるお陰でこうして一緒にお鍋を食べられてるわけだからね。その時は、ありがた~く同席させていただきますです、はい」
おどけながら、笑みを浮かべながら、有栖を崇めるようにへこへこと頭を下げる零。
そんな彼の言葉に乗るようにえっへんと胸を張った有栖は、そこで豆腐を口の中に放り込むと共に目を白黒させて慌て始める。
「はふっ! あふっ! おひゃっ、おひゃぁ……!」
「あはははは! 熱かったんだ? 豆腐はマジで地獄みたいな熱さのやつが出てくるから、そうなったりするよね」
「んひぃ……油断しちゃったぁ……! んぅぅ、舌が火傷してないか心配だよ……」
そう言いながらべーっと舌を出した有栖を見て、なんだか妙にドキッとしてしまった零が顔を逸らす。
涙目になりながら舌を出す彼女は何というか、実に保護意欲をそそるなと思いつつ……邪な思いを抱くのは良くないと彼が自分に言い聞かせる中、こくんと喉を鳴らしてお茶を飲んだ有栖が小さな声で笑い始めた。
「うん? 有栖さん、どうかしたの?」
「ふふふ……! ううん、何でもないよ。ただちょっと思っただけ」
「思ったって、何を?」
小首を傾げながら零がそう尋ねれば、有栖は手にしたコップを揺らしながらこう答える。
「こういうお鍋の時って、お酒を飲んだりすることが多いでしょ? テレビCMとかも最近はそういうのばっかり流れてるな~と思ってさ。私たちはまだ子供だからお酒は飲めないけど、飲めるようになったらどんな感じになるんだろうな~って想像したら、なんかおかしく思えちゃって」
「ああ、なるほど。確かにちょっと面白いかもね」
寒い時期には鍋にビール! というようなCMが流れるのは冬の定番だ。
鉄板の組み合わせとでもいうべきそれを思い返しつつ、もう一年も経てば自分たちも飲酒ができるようになる年齢かと考えた零は、有栖と共に自分たちが酒を飲んだらどんなふうになるのかを想像していった。
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