壁になったつもりで、聞いてくれ

「年も越して、新衣装のお披露目配信も終わって、色々とひと段落だね。こうしてこたつでのんびりしてると、余計に落ち着いた感じがするよ」


「だね。三瓶さんも地元に帰っちゃったし、喜屋武さんも里帰り中、みんなが少し休もうって雰囲気になってると思うな」


「私たちのお休みはもう少し先だけどね。今日は配信お休みさせてもらってるけどさ」


「正月休みっていっても俺たちの場合はなあ……特にやることもなく、家でごろごろしてそう」


「あはは、確かに! 旅行に行く……とかも、今から予約を取るのも厳しいか。やっぱりお家で寝正月だね」


「取ろうと思えば休みを取れる仕事だけど、あんまりそういう気分にならないんだよな~……出掛けることで雑談で話せるネタを仕入れられるから、家に引きこもり続けてないでどっか行こうかなと思いつつも、やっぱり出掛けないってオチになる」


「私はそもそも出掛けようって考えが出てこないもん。家で投稿する動画の編集したり、勉強したりしてるだけ」


「偉い、勤勉、真面目。俺はもう休みは完全にだらけてるや」


「零くんは普段から頑張ってるから、休みの日くらいはのんびりしないとだめだよ。そもそも、私のご飯を作ってくれることも多いしさ」


「別に家事は仕事が休みでもするじゃん。一人分も二人分も変わらない、変わらない」


「むぅ~……私は色々大変なんだけどなあ。お掃除はまだしも、洗濯が大変で大変で……」


「ははっ、流石にそこは手伝えないな~。有栖さんの下着とかを洗うのはマズい」


「炎上待ったなし、だね。そこは私も一緒に燃えちゃいそう」


「逆にあれだ、義母さんの下着を洗ってるって話になったら俺は燃えないパターンだ。『#息子に家事をさせるなしゃぼん』とかのワードがトレンド入りするやつ」


「『#枢に家事をさせて火事を起こそうとするなしゃぼん』……は、長いかな。セルフ却下で」


「家事と火事を掛けたんですね。お上手」


「……なんかギャグを解説されるのってすごく恥ずかしいね。初めて知った」


「あはははははっ! 確かにちょっとしたいじめだったかも、ごめんね」


「わ~ん、零くんがいじめるよ~! ひどいよ~!」


「ふふふっ、それを配信で言われたらまた燃えちゃうな。今の内に口封じしておくしかないか……!」


「ひえっ……! 美味しいお鍋をごちそうするから、命だけはご勘弁を……!!」


「……俺の顔でこういう脅し文句を言うと洒落になんねえんだよなあ」


「ふふっ、確かにそうかもね。零くん、ちょっと顔が怖いから」


「あっ、そういうこと言う? うわ~、傷付くわ~……」


「ごめん、ごめん! でも今は零くんがすっごく優しい人だってことはわかってるよ! あくまで何も知らない時の話だから、ねっ?」


「はぁ~……まあ、自覚はあるからいいんだけどさ。っていうか、その口ぶりだと有栖さんも初対面の時はビビったってことでしょ?」


「あはは、仰る通りです。でも、本当に最初だけだよ? カレーを食べさせてもらった時にはもう慣れてたしさ」


「あのタイミングで餌付けに成功してたのか。料理の腕を磨いておいて良かったなあ……」


「うふふふふふ……! 今日はその時のお返しに、私が零くんを餌付けしちゃうからね!」


「おっ、楽しみにしてるよ。じゃあ、そうなった場合は毎日ご飯を作ってもらおうかな?」


「ううっ……!? ま、毎日お鍋でいいなら大丈夫だと思うよ? それか、レトルト食品有りでなら多少は可能性が……」


「あははははっ! 冗談です、冗談。わかってるとは思うけどね」


「う~……上手く反撃ができない~……! いじめられたらいじめられっぱなしになっちゃう~……!」


「まだまだ有栖さんに手玉に取られはしないって。さてさて、お鍋の火加減はどうですかね~っと……」


「む~……いいもん。じゃあ、本気出すもん」


「ほほう? どうするつもりかな、入江有栖? 俺の守りは固いぞ~!!」


「……その割には喜屋武さんに抜かれてる気がしない?」


「あの人は特殊なタイプだから。っていうか、Vtuberには特殊なタイプの人が多過ぎて常識が通じないから。この話はどこかに放り投げて……はい、本気の攻撃をどうぞ」


「では、お言葉に甘えて……さっきの零くんの発言、配信でめいとのみんなに言ってもいい?」


「うん……? さっきの発言ってどれのこと?」


「毎日ご飯を作ってもらおうかな? ってやつ。言っちゃっても大丈夫なのかな~?」


「……ちょっとタンマ、それはヤバいって!」


「あはは、気付いた? 毎日ご飯を作ってほしいだなんて、プロポーズの台詞だよね! これを配信で言ったらどうなっちゃうんだろうな~?」


「ぐぬぬぬぬぬ……!」


「やった~! 零くんに勝った~! 今日のお鍋は美味しく食べられそう!」


「……それを言ったら有栖さんだってそうじゃない? 結構ギリギリな発言してるよ?」


「え? 私が……? そんな危ないこと、言ってた?」


「俺のお願いを断らなかったじゃない。俺の発言がプロポーズだとしたら、有栖さんの発言はそれに対するオーケーの返事になるんだけど? その辺のことはどう考えてますかね?」


「あう……あぅぅ……!」


「はっはっは~! やり返し成功! まあ、まだまだ俺に勝つには早いってとこ……」


「………」


「……止めようか、この話題。なんか恥ずかしくなってきた」


「……零くんの馬鹿」


「この話題を振ってきたのは有栖さんでしょ!? 自爆したからってそんなこと言うんじゃ……いてっ! こたつの中で脚を蹴らないの! もう!」


「むぅぅ……! そろそろお鍋できてるんじゃない? 湯気もいい感じに出てきてるしさ」


「くっ、やるだけやっておいて、この……っ! でもまあ、確かにいい匂いもしてきたし、ちょっと中を見てみようか」

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