本日のメニュー・鮭のホイル焼き

「そんなに固くならないで大丈夫だよ。今日の料理、本当に簡単だからさ。むしろ楽過ぎてしずくちゃんが物足りなく感じちゃうんじゃないか不安なくらいだもん」


「うぅ……! そんなこと言う人に限って、本当は難しいことを教えるんだ。ボクは詳しいんだ」


「本当に簡単だから! 今日、しずくちゃんに教える料理は……鮭のホイル焼きです!」


「シャケ……? あ、お魚か! なんか一瞬、思考がフリーズしてた」


 かわいらしくお魚、という言い方をしたしずくがはずかしそうにはにかむ。

 そんな彼女の反応に笑みを浮かべながら、枢は今日教えるメニューについて、詳しく解説をし始めた。


「これまで三回の放送を行ってきたけど、その大半が肉メインの料理だったからね。今回は初の魚料理です。うお座のしずくちゃんにぴったりでしょ?」


「……共食いって言われないかな? 大丈夫?」


「大丈夫。その場合、燃えるのは俺だから」


「それ、大丈夫じゃなくない? やっぱり枢くん、色々基準がおかしくなってるよ?」


 自分の緩いボケを本気なんだか冗談なんだかわからないボケで返されたしずくが強めのツッコミを入れれば、枢の方は楽し気に笑って彼女を宥めてみせる。

 そうした後、パンパンと手を叩いて話をリセットした彼は、改めて料理の説明を行っていった。


「これはもう、本当に楽な料理なんだよ。で、しかも美味い。おまけに野菜も一緒に食べられるとくるんだから、覚えておいて損はないでしょう。材料も簡単に手に入る上にそんなに種類も多くないしね」


「魚とお野菜かあ……ボク、あんまりその組み合わせがイメージできないかも。お肉の付け合わせに野菜はよく見るけど、魚に野菜を付け合せるのってないもんね」


「確かにそうかもね。普通の焼き魚はそのまま出すし、せいぜい刺身のツマくらいのものかな? でも、ホイル焼きの場合は野菜も美味しくいただけちゃうから、そっちも楽しみにしててよ!」


 しずくの期待を煽るように話をしながら、少しずつ準備を進めていく枢。

 その途中でふと何かを思い出した彼は、補足の説明をしていった。


「そうだ。今回は鮭で作るけど、応用すれば白身魚でも同じような料理が作れるから、それも覚えておいてね。そっちもまた別の美味しさがあっていいもんだよ」


「一つの技術を習得すると別の部分でも応用できる……ゲームとおんなじだね」


「あはは、そうかも! 前は俺がしずくちゃんにゲームのコーチングをしてもらったけど、今日は俺がしずくちゃんに料理のコーチングをする番だね! しずくちゃんがしてくれたように、優しく丁寧に教えるつもりだから……わからないことがあったら何でも聞いてね!」


「あ、ありがとう……! さっきの収録で愛鈴さんにビシビシ言ってるところ見たから、ちょっと不安だったんだよね……」


「あれは気にしないで。生徒役が特殊な相手だからそうなってただけで、普通はハリセンもピコピコハンマーも使わないから」


 『枢くんは本当に優しい先生です! 愛鈴さんが特殊過ぎただけです!』という注意書きのテロップが画面に表示される。

 スタッフ陣が丁寧に枢のフォローをすると同時に愛鈴のヤバさを伝える中、仲良く話をしていた二人は料理の準備を整え終わったようだ。


「さ~て、準備ができたみたいだね。じゃあ、キッチンの方に移動して、本格的に料理のコーチングといこうか! とりあえずまず手を洗ってね!」


「は、はいっ! わわわ、緊張してきた~……! う、上手くできるか心配だけど、頑張ります!」


「あはは、大丈夫だよ。何回も言ってるけど、そんなに固くならないで。楽しく覚えて、ホイル焼きを作れるようになったら、芽衣ちゃんとお互いに料理の教え合いっことかしてほしいな」


「あ、うん……! そういうの、ちょっと楽しそう……! お互いに料理のコーチングができたらいいな……!!」


 やる気を漲らせ過ぎてガチガチになっていたしずくも、枢の一言で若干固さが解れてきたようだ。

 親友とお互いに料理を教え合うことを楽しみにする彼女の笑顔を画面に映した後で、場面が転換し、キッチンに立つ二人の立ち絵が表示される。

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