十分だけの、クリスマス

「さっみぃ~……! 大丈夫、有栖さん?」


「うん、平気だよ。でも思ってたより寒いね。冬の夜を舐めてたみたい」


 二期生のクリスマスパーティー配信が終わって、そのまま流れでお泊り会をすることになって、飲み物とかつまみはパーティーで余った料理を使い回すことでどうにかできるけど、甘いものが足りないなという話になって……半年くらい前に似たような展開になったなと思いながら買い出し班として名乗りを上げてこうしてコンビニまで出掛けている枢であったが、今回はその時と違う点が二つある。


 一つ、冬の夜だということ。

 吐く息が白いもやとなって天に昇るくらいの寒さに厚着をした体を震わせる彼は、もう一つの違う部分である同行者へと声をかけた。


 ちょこちょことした小さな歩幅で零の隣を歩く有栖もまた、白い息を吐いてはその寒さに震えつつも楽しんでいるようだ。

 わざわざ買い出しについてきてくれた彼女に感謝しながらも、零はどうして有栖が自分についてきたんだろうかとその理由を訝しんでいた。


(別に大荷物ってわけでもねえし、時間も時間なんだから家に居てくれて良かったんだけどなぁ……)


 冬の夜は寒い上に暗い。時間も深夜に差し掛かっている頃だし、男がいるとはいえ女の子が出歩くにはよろしくないだろう。

 それでもわざわざ自分と一緒について来るだなんて、有栖は何を考えているのだろうか……? と思いつつも、零は決して彼女のことを迷惑に思っているわけではない。


 クリスマスパーティー配信の余韻に浸りたかったし、この時期だからこそ話したいことは山ほどある。

 行きと帰りでも十分程度の時間しかない道のりではあるが、こうして二人きりで過ごす時間があるというのはいいものだ。


「……寒いね、零くん。本当に寒いや」


「さっきまで温かい家の中にいたから特にそう思っちゃうよね。早く帰って、温まろうか」


 今頃、沙織たちは有栖がプレゼントしたバスボムを使ったお風呂を楽しんでいるだろうし、と言おうとしたところでその光景を想像してしまった零が苦笑でごまかしながら口を噤む。

 頭の中にはたらばのHなたわわやらスイの綺麗な肌と結構なお点前であるおっぱいとそれを見て蹲る天の姿が浮かび上がっているが、それをわざわざ有栖に言う必要はないだろうと、そう彼が考えていると――。


「……寒いね、零くん。冬はすごく冷えるね」


「んん……?」


 何かがおかしいと零は思った。

 違和感の正体は単純で、有栖が振ってくる話の内容だ。


 冬の寒さが厳しいと、彼女はもうこれで三度も自分に言い続けている。

 有栖の性格上、それしか話す内容がないならば黙って零に会話を振られるまで待つだろうに、どうして自分から何度も寒さアピールをしてくるのだろうと訝しむ彼の前で、彼女はわざとらしく両手を口の前に運ぶと、は~っと息を吐きかけてからこう言ってみせた。


「寒いね、零くん。手、こんなに冷たくなっちゃってるよ」


「……ああ。ははっ、そういうことか」


 それでようやく全てを察した零が小さく笑いながら納得したように感想をこぼせば、有栖は不満気にこちらを見つめた後でぷくっと頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。

 確かにこれは鈍感な自分が悪いなと反省した零は、苦笑を浮かべながら隣を歩く彼女へと右手を差し出し、言う。


「有栖さん……手、繋ごうか」


「……うん」


 小さな、されど確かに嬉しさが詰まった声で返事をした有栖がそっと左手を伸ばす。

 随分と大きさに差がある彼女の手を優しく握った零は、その冷たさに苦笑を浮かべながら口を開いた。


「本当だ、かなり冷たくなってるや。もっと早く気付いてあげられなくてごめんね」


「……いいよ、別に。気にしてないから」


 そう言いながら、握り方を指と指を絡ませる恋人繋ぎへと変えていく有栖。

 冬の冷たい夜風から守るように上着のポケットへと零が繋いだ有栖の手を招き入れれば、彼女は嬉しそうに微笑んでみせた。


「……寒いねえ。コンビニで肉まんでも買って、温まろうか」


「ふふふ……っ! そうだね。喜屋武さんたちには悪いけど、体を温めるためにコンビニに長居するのもいいかもね」


 話したいことが沢山あったような気がするが、そのほとんどが頭の中から吹き飛んでしまった。

 今はただ、この時間をどう引き延ばすかの方法を考えることに思考の大半を割いているような気もする。


 コンビニに行って帰るまでの道のり、時間にしておよそ十分間。

 とても長いだなんて言えない、時計の針がほんの少しだけ進むまでの、僅かな時間。

 だけれども……今の彼らには、それで十分過ぎるくらいなのかもしれない。

 

 どれだけ短くとも、プレゼントやケーキが無かったとしても……この十数分間だけは誰にも邪魔されない、二人だけで過ごすクリスマスなのだから。


「……寒いね、有栖さん。冬の夜風が身に染みますわ……」


「そうだね。でも、ちょっとだけ温かくなってきたよ?」


 そんな会話を繰り広げながら、前だけを見つめながら、歩き続ける零と有栖。

 ゆっくりと、先ほどまでよりもずっと遅い速度で歩き続ける二人は、聖なる夜に少しだけ特別な気分を抱えながら柔らかく相手の手を握り続けるのであった。


―――――――――――――――


今年最後の更新をくるめいのお話にできて地味に嬉しい。

本年は書籍化をはじめとして本当に色々なことがあり、皆さんから応援していただけていることを強く実感した一年でもありました。

無事に今年も毎日投稿を続けられたのは皆さんの応援あってのことであり、日ごろからこんな自分を励ましてくださる皆さんには本当に感謝しています。


様々なVtuber小説が本として出版されていることも喜ばしい限りで、来年も沢山のVtuber小説が1月から発売予定なのも楽しみですね!


自分も二巻を出せるように頑張ってます!編集さんも頑張ってくださってますし、まだまだ諦めてません!

いいご報告ができるよう、これからも尽力していきます!


何はともあれ、2022年は本当にお世話になりました!

2023年もよろしくお願いします!では皆さん、良いお年を!!

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