クリスマスデートの、要望

「クリスマスデートか~! 男女問わず、誰しも一回くらいは想像するわよね~!」


「まあ、時期が時期ですしこういう恋愛に関する質問が結構送られてきてそうですね。滅多にない機会ですし、色々話してみましょうか」


 本日は聖夜、街に恋人たちがあふれる夜。

 そういう時期柄もあってか、恋愛に関する質問がマシュマロボックスに多く届いていることを知っている枢たちがそれへの回答に乗り気になる中、まずはといった感じでたらばがトップバッターを務める。


「じゃあ、言い出しっぺの私から答えるさ~! 私の場合はね~……雪があるところに行きたいかな?」


「雪? スキー場とか、ゲレンデってこと?」


「う~ん、ちょっと違うかも? 単純に沖縄出身だから雪をあんまり見たことがなくってさ~、直接見てみたいんだよね~!」


「ああ、そういう……ってことはあれかな? たら姉の場合は、ホワイトクリスマスを過ごしたいってのが回答としてはしっくりくるのかな?」


「それは場所じゃない気がするけど、納得できる理由があるから……それでいいんじゃないかな?」


「男のふとの努力ではどうしようもないね。神様さ雪っこ降らへでもらえるよう、お祈りするすかね」


「そういうリア様はどうなの? たらばとは逆の北国出身だし、雪がない場所に行きたいとか思う?」


「わいは? わっきゃ……う~ん、んだの……」


 いきなりややズレた回答が出てきたが、これもまあ一つの要望の形ではあるかと納得する一同。

 その後、南国育ちのたらばとは真逆なリアへと話を振れば、彼女は悩んだ末にこんな答えを口にしてみせる。


「クリスマスツリーが見たいですかね。たげでっけぐで、綺麗なやづ」


「かわいい~! 無邪気なリアちゃんっぽくていいね!」


「良かったな、アクエリスナー。この情報は貴重だぞ?」


 なんともかわいらしいリアの回答に、ほっこりとした気分になった一同が楽し気にはしゃぐ。

 そう答えた本人が恥ずかしそうに頬を赤らめる中、次いで質問に答えたのは愛鈴だ。


「私の場合はな~、色々と妄想したりはするんだけど、現実にクリスマスデートするとなったらどこにも出掛けずに家にいるような気しかしないんだよな~……」


「あ、ちょっとわかるかもしれないです。クリスマスってどこに出掛けても人が多いですし、待ち時間とかすごいですもんね」


「そうそう! 別にそういうのを否定するわけじゃあないんだけど、特別な思い出ってわざわざ出掛けなくても作れるわけじゃない? だったらもう、家で二人きりでのんびりしてるでもいいんじゃないかしら?」


「なるほど……リアリストっぽい感じしましたけど、ロマンチストな部分もあるんですね。ちょっと安心しました」


「うっさいなあ。そう言うあんたはどうなのよ? 男目線の回答を聞かせなさいって」


 隠しきれない乙女心を枢に指摘された愛鈴が気恥ずかしさをごまかすように強い口調でそう問いかければ、彼は別段答えに詰まることもなくさらりと自分の答えを言ってみせる。


「俺の場合はどこに行きたいとかの要望はないっすね。強いて挙げるなら、相手が行きたいと思ってる場所っすよ。デートなんだから相手に楽しんでもらうのが一番ですし、男側の要望は二の次でしょ」


「おお……! 流石は蛇道さん、スマートな回答だ……!!」


「男の子の目線からするとそうなるよね~! 自分が自分がっていうより、そんなふうに考えてくれる人の方が女の子としても嬉しいさ~!」


「まあ、男が行きたい場所ってなったら最終的にホテルになっちゃいそうだしね」


「おいやめろ! ここはお前のチャンネルじゃねえんだぞ!?」


 唐突に下ネタをぶちかます愛鈴へと枢が大慌てでツッコミを入れる。

 コメント欄が【草】の文字であふれる中、そんな雰囲気を無視してたらばが芽衣へとこんなことを言う。


「ってことらしいからさ~……芽衣ちゃんが要望を言えば、枢くんはそこに連れてってくれるみたいだよ~!」


「えっ? そ、そういう話なんですか……?」


「そういう話、そういう話! さあ! 芽衣ちゃん的には枢くんとどんなクリスマスデートがしたいか、言ってみよ~!」


「……たら姉? その言い方はかなりマズいよ? 俺、聖なる夜にこんがり黒焦げになるよ?」


 なんだかこうなる予感はしていたが、予想以上の火力が発揮されそうな問いかけ方をするたらばと場の雰囲気に恐怖を募らせる枢。

 コメント欄に【遊園地だろ】とか【遊園地一択】とかいうリスナーたちのからかい半分の答えが流れる中、もじもじと恥ずかしそうに芽衣が自分の行きたい場所を告げた。


「じゃあ、えっと……今度、ドニャーもんの新作映画があるから、それを見に行きたい……かな」


「あ~、映画ね! はいはい! この時期は面白そうなラインナップが揃ってて行きたくなっちゃうよね~!」


「映画館ならまあ、混雑することもないだろうし……一日中いても楽しめそうよね」


「ドニャーもん、かわいいめごぇです……」


 割と好感触というか、デートスポットととして優秀かつ王道な芽衣の答えは男女問わず多くの共感を集めているようだ。

 的外れなことを言わずに済んだと彼女が安心する中、無邪気に火が付いたたいまつを振り回すたらばが言う。


「で? 芽衣ちゃんはこう言ってるんだけど、枢くんはどうするの~? ドニャーもん、見に行くよね~?」


「あ、その……む、無理しなくていいよ、枢くん。ここで行くって言ったら、また燃えちゃうだろうし……」


「いや、大丈夫。もう手遅れだから」


「それって大丈夫でねってわっきゃ思うんだげど……」


「むしろここで濁したら向こう二週間は【芽衣ちゃんとドニャーもん見に行かないんですか!?】ってマシュマロが届くよ、俺は詳しいんだ。っつーわけで……予定合わせて見に行きましょうか。まあ、二人きりかどうかはわからないけどね」


 既に体に火がついている気がしなくもないが、炎上慣れしている枢にとってはこの程度はまだ許容範囲内らしい。

 流石の火炎耐性に一同は感心しつつ、さらっとこの状況における無難な対応で場を流した枢は、たらばに話を振ってこの話題も同時に流してみせた。


「はい、というわけでクリスマスデートに関する質問の答えは出揃いました。次のマシュマロ、お願いします」


「オッケー! じゃあ、次はね……これだ!」

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