料理を手に、おしゃべりを

「では、改めまして……久々の再会とクリスマスを祝して、かんぱ~い!」


 カンッ、という小気味良い音を響かせながらグラスをぶつけ合う二期生たち。

 単純に、純粋に、パーティーを楽しむ一同は、テーブルに並べられた料理をつまみながらリスナーたちをこの輪に招き入れるかのようにコメントを拾っていった。


「さ~て、この辺でちらっとコメントでも見ていきましょうかねっと。どれどれ……?」


【たらばのSNSに料理の写真投稿されてるけど、あれ全部手作りなんですか!?】

【むちゃくちゃ美味そうなんだが。本当にどっかで買ってきたものじゃないの?】


「まあね。ぶっちゃけたら姉の撮り方が上手くて美味しそうに見えてる部分はあると思うけどな」


 今現在、パーティー会場に並べられている料理の写真を見たリスナーたちは、思っていた以上の完成度に驚いているようだ。

 昨日の有栖がそうであったように、ローストビーフまでもが手作りされていることに彼らが感心する中、料理の半分近くを担当した当の本人はというと、芽衣が作ったカナッペを頬張ってその味を堪能していた。


「うん、美味しい。見た目も綺麗だし、やっぱこういうのが一品あると見栄えが華やかになっていいよね」


「綺麗に作れたのは枢くんのお陰だよ。私は大したことしてないし……でも、そう言ってもらえて嬉しいな」


【嫁の料理を褒める旦那の鑑】

【あっ、二人で一緒に料理したんだ? ふ~ん……】

【二期生全員で料理とか、てぇてぇ】

【芽衣ちゃんお手製のカナッペ、わいも食べたいでござる】

【嫁の笑顔を見ながら食べる嫁お手製の料理は美味いか?】

【↑高級フレンチのフルコースに匹敵する美味さなんだよなあ……】


「えっ? これ、カナッペっていうの? ブルスケッタじゃなくって?」


「どっちも同じ料理なんじゃない? 言い方が違うだけでさ~」


「ブルスケッタは土台がパンで、そこになんか塗った物をそう呼ぶんすよ。今回は土台がクラッカーなんでカナッペっす。つってもまあ、俺も何日か前にそれを知ったんですけどね」


「流石は枢兄っちゃ、料理の知識は抜群だ。うめ、うめ……」


「ふふふ……! リア様、慌てず食べてくださいね。まだまだ料理はありますから」


 自分たちで作った料理を、楽しい雰囲気の中で食す。これもまたパーティーの醍醐味だろう。

 店で買ったオードブルもいいが、こうして作る過程を踏まえることで楽しさも美味しさも一段と跳ね上がることを理解している枢は、自分だけでなくみんなでクリスマスパーティーの準備ができたことを色んな意味で喜んでいる。


 それは他の四人も同じようで、全員がわいわいと騒ぎながら自分が作った料理をアピールして、お互いに食べさせあっていた。


「ほら、これ! 私が作ったピザだぞ! つってもまあ、生地を作ったのは枢で、私は具材を乗っけただけだけどさ……」


「前に俺んちの電子レンジくんをぶっ壊しましたもんね。二代目レンジくんにはそんなことしないでくださいよ?」


「ほらほら! お肉ばっかり食べてないで、サラダも食べるさ~! こっちも美味しいよ~!」


「サラダといえば……こっちにかぼちゃのサラダを乗せたカナッペも用意してあるんで、良ければ食べてくださいね」


「まむまむ……これにデザートのケーキまであるだなんて、夢みたいだ……! 全部食い切れるべがな……?」


【リア様の、食いしん坊万歳!】

【いっぱい食べる君が好き】

【リア様が満足そうで何よりです】


 会話をしながら、お互いに自慢し合いながら、食事をしていく二期生たち。

 そんな同期たちの姿を見ていた枢が、ボソッと小さな声でこんなことを呟く。


「……なんか、いいっすね。自分が作った料理を美味しそうに食べてもらえたり、誰かが作った料理を美味しいって言えるのって」


「おっ、なんだ~? 急にてぇてぇこと言いやがって、酒は飲んでないはずだろ~?」


「そういうんじゃないっすよ。一人暮らししてると、自分で作った物を自分だけで食べるのが基本なんで……こうやってわいわい騒ぐのって楽しいなって、そう思っただけです」


【芽衣ちゃんがいるだろ。嘘をつくんじゃない】

【お前には芽衣ちゃんがいるはずでは??????】

【これは一人が寂しいからこれから毎日一緒に食卓を囲もうという芽衣ちゃんへのアピールと見た】


「……って言われてるけど、なんか言うことある」


「絶対そうなると思ってたんで敢えてノーコメントでお願いします」


 少しセンチメンタルな気分になって口にした発言を愛鈴だけでなくリスナーたちにまでからかわれた枢が苦笑を浮かべる。

 だが、それでも誰かと一緒に温かなクリスマスを過ごせることを喜ぶ彼の気持ちに変わりはなく、楽しそうにはしゃぐ仲間たちのことを見つめるその目は優しさに満ちていた。


「さ~てさて! みんなも多少はお腹を満たせたし、ただただご飯を食べるだけじゃあ配信の意味がないからね~……ここからはクリスマスにちなんだ話でもしていくさ~! ちょっと前から募集していたみんなからのマシュマロを拾って、それについてトークしていくよ~!」


 そんな中、ただパーティーを楽しむだけでなく、Vtuberとして配信を盛り上げるべくたらばが話を切り出した。

 枢たちも当然、このまま食事をするだけの配信をするつもりもなく、前々からの打ち合わせに従って場を進行してくれた彼女に感謝しながら、その話題に乗っていく。


「年に一回のクリスマス、みんなも色々聞きたいことがあるだろうからね! なんでもとは言えないけど、バンバン答えていっちゃうよ~! まず最初の質問は……これだ!」


 配信用のPCを操作し、準備してあったマシュマロを画面に表示するたらば。

 枢たちも画面を覗き込むようにしながらその内容を確認していけば、思っていたよりもまともな質問マシュマロが目に入った。


『クリスマスにデートに行くなら、どこに行きたいですか?』



 

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