二番手の、妹

「ありがとうございます、リア様。つまらなくなんかないですよ。本当に嬉しいです」


「えがった……! そう言っていだだげでほっとしました。あっ、挨拶がおぐえてごめんなさい。【CRE8】二期生、リア・アクエリアスです。こんばんは」


【リア様~! 今日もお美しい歌声で~!】

【本当にいいプレゼントだったよ!】

【くるるん、リア様に歌でお祝いしてもらえるだなんて羨ましいな……燃やすか】


 二番手として登場したリアの歌のプレゼントにわっと沸くリスナーたち。

 枢もまた彼女からの心が籠った贈り物に感動し、喜びの笑みを浮かべている。


「改めまして……お誕生日おめでとうございます、蛇道さん」


「わざわざお祝いしに来てくれてありがとうございます、リア様。時間大丈夫ですか? そろそろおねむなんじゃありません?」


「あっ! そうやってわーば子供扱いすて……! まだ大丈夫だよ、ふんだ!!」


 そんなつもりはなかったんだけどな、と素でリアのことを心配した枢はそれが彼女の機嫌を損ねてしまったことに苦笑を浮かべる。

 リアの方はそこまで気にはしていなかったようで、そこからすぐに話題を切り替え、彼と思い出話をし始めた。


「本当、不思議ですね……蛇道さんとはまだ出会って間もないのに、もう長い間、一緒にいたような気がします」


「さっきたら姉とも同じようなこと話してましたよ。それだけ濃くて充実した毎日を過ごしてるってことじゃないですかね?」


「そう、ですね……でも、そんな日々を過ごせているのは、蛇道さんのお陰です……」


「あはは、それもたら姉から言われました。そんなことないと思うけどな~」


「そんなこと、なくないですよ。あなたがいたからこそ……私は、自分の殻を破れたんだって、そう思ってます」


 方言モードではなく、無口キャラモードで静かに語るリアの言葉には、確かな想いが込められていた。

 自分に感謝する彼女へと謙遜の態度を見せる枢であったが、それでもリアからの感謝の言葉は止まらない。


「事務所のスタッフを除いて、初めて方言のことを相談したのは蛇道さんでした。そのことで一緒に悩んでくれて、解決策を模索してくれて、迷惑もかけて……それでも優しくしてもらえて、本当に嬉しかったです。あなたがいなかったら、私は何も変われないままだったと思います。自分の未熟さとか、そういうのを知って、それでも手を差し伸べてくれる人たちの想いに応えたいって思ったからこそ、私は今の自分になれたんです」


「……なら、それはリア様自身の行動の結果ですよ。俺が何かをしたわけじゃあない。あなたがすごかった、それだけです」


「そったごどね。今、こうやって本当の自分どすて皆さんの前でおしゃべりでぎぢゅのは、蛇道さんのお陰だ。誰が何しゃべるべども、その気持ぢは変わらねよ」


 無口でクールなお姫様のような自分と、無邪気で子供っぽくて方言で話す自分。

 その両方を少しずつ使いこなし、成長していくリアの姿は、枢の目から見ても微笑ましいものだ。


 自分は何もしていない。あの頃は体調管理がなっていなくて倒れてしまっていたし、彼女の成長に何か手を貸したわけではないはずだ。

 そう思う彼とは正反対に枢がいたからこそ自分を見つめ直す機会ができたと語るリアは、改めて彼へと感謝の気持ちを伝えていく。


「いつも兄っちゃみだいにわーのこど見守ってける蛇道さんには、ほんに感謝すてら。いづがこのご恩返せるよう、そすて立派な歌姫になれるように……こぃがらもけっぱっていぎますね」


「なら、俺も傍で見守り続けますよ。リア様の歌を特等席で聴き続けられるって考えたら、かなりラッキーですしね」


「ふふふ……! 約束、しましたからね? ちゃんと、私が夢を叶えるまで、見守っていてくださいよ? 枢お兄ちゃん!」


【おうふ……!! 枢お兄ちゃん、の破壊力がヤバい……!】

【リア様がくるめいの娘からくるるんの妹になった瞬間であった】

【くるるん、リア様にお兄ちゃんって呼ばれるの羨ましいな……燃やすか】


 どこか微笑ましい雰囲気の中で、これからも傍で彼女の活躍を見守り続けることを誓う枢。

 祝福だけでなく、感謝まで伝えられるとどうにも気恥ずかしさが勝ってしまうなと彼が思う中、時間を確認したリアが言う。


「そろそろわーもえがねぐぢゃだめだね。じゃあ、蛇道さん、お誕生日おめでどうございます。他の皆さんにもお祝いすてもらって、素敵な誕生日過ごすてけね」


「はい、ありがとうございました。リア様もクリスマスにはこっちに来れるでしょうから、また会えるのを楽しみにしてますよ」


「わーもです! クリスマスはみんなでパーティーしましょうね!!」


 少し先の予定を約束しつつ、その日の到来を待ちきれない様子でしゃぐリア。

 そんな彼女のことを、枢は先の言葉通り優しく見守っていたのだが――


「あっ! わーのおっぱいはDカップです! こういう決まりなんですよね? 言い忘れてました!」


「うん? んんっ? ちょっ、リア様!? そんな決まりないですよ!? えっ!? まさか待機中のメンバーの間にそんな話が広まってる!?」


「じゃあ、伝えることも伝えたんで、わーは行きます! お疲れ様でした~!」


「リア様!? リア様っ!? ねえ、待って! もしかしてこの後、全員がバストカップ伝えてから帰る配信になるんじゃねえの!?」


【草www】

【くるるん祝える上にみんなの胸のサイズも知れるだなんて最高の配信じゃん。拡散してくるわ】

【HからのDか……リア様もでっけえんだなぁ……】

【リア様をそんな目で見るな。〇すぞ】


 またしてもエモい雰囲気を最後の最後で粉砕された枢が焦りを募らせながら叫ぶ。

 リスナーたちが別の意味で盛り上がり始める中、即座に次の凸者を呼んだ枢は、彼女の声を聞いて苦笑とも歓喜とも取れる笑みを浮かべた。


「よ~う、枢~! 巨乳共にお祝いされて嬉しそうだな~、ええっ? お前の嫁は貧乳だろうが! 目ぇ覚ませ! このスケベ野郎!!」

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