第3回くるるんキッチン!(ゲスト・愛鈴)

中ボスとの料理配信、開始

『……この番組は、料理技術どころか家事スキル皆無な【CRE8】所属Vtuberのために、料理出来る系男子である蛇道枢が美味しいご飯の作り方を教えてあげる、優しさと温もりに満ち溢れた番組です……なので彼を燃やさないであげてください、お願いします。【CRE8】スタッフ一同より』


「え~……この動画を観ている皆さん、スタッフ一同、ついにこの時がやってきました。もう一言で言いましょう、ボス戦です」


 夜七時ジャストに投稿された動画の冒頭にて、過去一神妙な声で挨拶を行う枢。

 普段はお気楽なスタッフたちも今日ばかりは真面目そのものであり、現場に漂う緊張感が感じられる。


「前回のリア様、前々回の芽衣ちゃんと料理を教えてきましたが、今回のゲストはこれまでの二人とは比べものにならないレベルの問題児です。最悪、死人が出るかもしれません」


「おい! それはどういう意味だ!? なんで料理番組で死人が出るってのよ!?」


 大袈裟なんだかそうでもないんだかわからない枢の言葉に対して飛ぶ、鋭いツッコミ。

 非常に聞き馴染みのあるその声を耳にした彼は深いため息を吐くと、本日のゲストを紹介していった。


「……はい、というわけで第三回くるるんキッチンのゲストはこいつ、愛鈴で~す。拍手~……!」


「あんた、これまでとテンションが違い過ぎない!? そんなに私がゲストなのが不服か!?」


 芽衣やリアを迎える時はあんなに朗らかだったのに、自分の時だけ異様にテンションが低い枢へと登場早々に文句をぶつける愛鈴。

 そんな彼女に対して、枢は真面目な声でこう答える。


「いや、不服とかじゃねえんだよ。この後で待ち受ける戦いの厳しさを想像すると、どうしたってこうなるっちまうんだって」


「私をどんだけ料理下手だと思ってるのよ、あんたは!? っていうかスタッフも同意見なの!? どんだけ信用ないのよ、私!?」


 ネタでこういう対応をしているのではなく、本気になり過ぎているせいでふざける余力がないという枢の言葉に吼える愛鈴であったが、自分以外の全員が同じ気持ちであることを知って愕然とする。

 どうしてここまで信頼されていないのか……と疑問に思う彼女であったが、彼女が蛇道家の電子レンジを破壊した女であるということを忘れてはいけない。

 その事件の前に収録は行っているのであろうが、この時点での愛鈴は自分の料理の腕が周囲に言われるほど壊滅的ではないと認識している状態で、そこが枢たちとの大きな認知の差を生み出していた。


「マジで打ち合わせ大変だったんだぞ? お前に何を教えるか、スタッフさんたちと慎重に慎重を重ねて話し合ったんだから」


「そ、そんなレベルなわけ?」


「だってお前に揚げ物とか教えたら、スタジオで成功しても家を火事にしかねないじゃん。正直、包丁を持たせることすらも怖いよ、俺は」


「あんた、芽衣ちゃんとリア様にはあんなに楽しそうに料理教えてたじゃない!! 私の時だけ露骨に差別してない!?」


 危機感MAXの枢と、この扱いを不服に思う愛鈴の認識の差はどんどん広がっていく。

 そんな中、こっそりと二人の下に近付いた一人のスタッフが、枢へととある物を手渡した。


「……ねえ、何よそれ?」


「見りゃあわかるでしょ? ハリセンっすよ、ハリセン」


「なんでよ!? どうしてよ!? これまでツッコミ用の道具なんて使わなかったじゃない! ってか、そこはピコピコハンマーじゃないの!? ガチでハリセン用意してんじゃないわよ!!」


 第一回、二回の放送とは完全に違う自分のゲスト回の収録内容に怒涛のツッコミを入れる愛鈴。

 対して枢は、ハリセンの素振りをしてその感触を確かめながら彼女へと言う。


「悪いけど、俺は今回超真面目にいくからな? お前がヤバいことしようとしたら後頭部をこのハリセンで引っ叩くから、そのつもりでいろよ?」


「そこはせめてケツにしなさいよ、ケツに!! どこの世界にアイドル系Vtuberの後頭部を全力で引っ叩く料理番組があるってのよ!?」


「普通のアイドル系Vtuberはケツだなんて下品なことは言わねえんだよ! この時点でもう、アイドル失格だっつーの!!」


 ボソッとご尤もなツッコミを入れつつ、愛鈴の発言をスルーする枢。

 第三回くるるんキッチンはこうして波乱の中で始まりを迎え、料理の開始が近付くと共にスタッフたちの緊張も高まっていった。


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