声劇コラボ、始動

「よっ、待ってました! 新人脚本家蛇道枢先生のデビュー作、拝見させていただきます!」


「そんな煽らないでくださいよ。精一杯やりましたけど、自信作とまでは言えないんで」


 自分が手掛けた脚本をサーバーに上げ、メンバーと共有する枢。

 一同がそれをダウンロードする中、その待ち時間を使ってライルが中身のコンセプトを軽く説明していく。


「今回の脚本は、界隈の状況を顧みて、できるだけシチュエーションが被らないようにしました。舞台は現代ではなくファンタジーの世界、暗い雰囲気を吹き飛ばせるようなハッピーエンドの物語……といった感じです。イメージでいえば、シンデレラ。意地悪な義姉たちに虐げられていた主人公が幸せを掴むような、そんなお話ですね」


「意地悪な姉……やったね愛鈴ちゃん! はまり役が早速見つかったよ!」


「ルピアも、出番が確定してよかったわね」


「おうお前ら覚悟しろ! ボッコボコにいじめてやらあ!」


「誰が性格悪いシスターズだ、コラ!?」


 沙織と穂香の発言にキレた愛鈴とルピアがツッコミ兼怒りの声を上げる。

 そんな彼女たちの反応に笑っていた一同は、ダウンロードが終わった脚本を確認していきながら次々と質問を投げかけていった。


「キャスティングはどうなってますか? 誰がどの役をやるとか、そういったことは考えてあるのでしょうか?」


「いえ、まだほとんど決まってないです。ここから各人の適正に合わせて、役を当てはめていきたいと思ってます」


「アドリブとかは? 入れても大丈夫?」


「もちろん平気です! お話を明るくするためのコメディ要素も追加していきたいんで、そういった案も募集してます!」


「キャラの絵とかはどうしますかね? その辺も要相談的な?」


「そうですね。準備期間がそこまで長くないこともあるので、必要最低限の物だけ用意する形になると思います」


「これ、イメージはシンデレラって言ってたけど、最後は王様じゃなくて騎士と結ばれるんだね。その心は?」


「俺の趣味です、いいでしょう?」


 一つ、また一つと繰り出される質問に対して、丁寧な答えを返していく枢とライル。

 彼らの返答を聞きながら、そこそこ文量がある台本を読み進めていった一同の感想を代表して述べるように、ルピアが口を開く。


「いいじゃん、悪くないと思うよ。初めての脚本にしては十分過ぎる出来でしょ」


「ありがとうございます! ……つっても、ライルさんと左右田先輩にアドバイスしてもらいまくったんで、当然っちゃ当然なんですけどね」


 賞賛の言葉に感謝しつつ、自分一人で作ったものではないということを正直に告げる枢。

 そうした後、彼は仲間たちに向かって意気込みを宣言する。


「今回の企画は、規模に反して練習期間があまり長くありません。急ピッチで進めていくんで、皆さんの負担も大きくなってしまうと思いますが……協力して必ずや成功させましょう! 俺も全力を尽くします! 皆さんも意見があればガンガンぶつけてください! よろしくお願い致します!!」


 発起人である彼の宣言に同調した仲間たちが歓声をあげる。

 明るく良い雰囲気の中、メンバーは早速声劇コラボに向けての活動を開始した。


「それじゃあ、まずは役決めから始めましょうか。台本を読み込んだ上で、誰がやるのがいいのかを話し合って決めましょう」


「裏方組は別のサーバーで話しましょうか。自分、ちょっと立ててきます」


「蛇道監督~! 私、ヒロインがやりたいな~! ここじゃなくて、ホテルで二人だけで秘密のオーディションとかしてみません?」


「おっ、今噂の枕営業か~? こいつはリークして炎上させねえとな!」


「ああ、また【VGA】と枢くんが燃える……」


「枕営業疑惑を払拭するためのコラボの中で枕営業を持ち掛けてくるんじゃねえ!! 外野も騒ぐな! 真面目にやれ、真面目に!」


 檸檬の結構危険なボケに対しての枢のツッコミに、どっと笑いが巻き起こる。

 堅苦しい空気ではなく、楽し気な雰囲気の中で声劇の企画を進めていく面々の様子を一歩引いた位置で眺めるライルは、僅かに笑みをこぼすと共に目を伏せた。

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