集う、勇士たち

「大丈夫だって! こっちにはあなたたち以上に燃えてる奴がいるんだから、お互いにそれは言いっこなしってことで、ね?」


「そうそう。火種を抱えてるのは私らも同じだし、そこんところは持ちつ持たれつでいきましょうよ!」


 あっけらかんとしているというか、能天気というか……軽くはあるものの、状況を把握しつつこの場の雰囲気を和らげるような発言をしてくれたのは、【VGA】所属タレントである夕張ルピアと三三檸檬だ。

 以前のゲーム大会で知り合い、今回の企画に参加してくれることになった彼女たちに続き、同じ事務所のメンバーが自虐的なことを言う。


「……ようやく鎮火したはずだった火種が再燃して、またしても炎上した女です。今回はお世話になります」


「だ、大丈夫ですか、緑縞さん? なんか、心なしか元気がなさ気なんですけど……?」


「ええ、平気よ……ただちょっと、予想外の方向から燃えたことでショックを受けてるだけだから……」


「ああ……その気持ち、よくわかります……」


 今回の騒動で古傷を抉られて再び炎上している女こと、緑縞穂香のぼやきに共感する枢。

 以上三名、【VGA】からの助っ人に彼が感謝する中、また別の事務所の面々が穂香を励ますために口を開いた。


「気にしない、気にしない! 禊は済んでるんだし、その辺は運が悪かったと思ってスルーが安定だよ!」


 Vtuber事務所【アースネットワーク】に所属しているタレントたちで構成されたユニット、【SEASON】。

 春日野さくら、夏海なぎさ、秋月すすき、冬雪つららの四名もまた、枢の頼みに応じて駆け付けてくれた。


「【SEASON】の皆さんの演技力は頼りになるんで、本当に助かります。危険しかないコラボに参加してくださったことに、ありがとうと言わせてください」 


「Vtuber界隈全体のために一肌脱ぐって言うんだ、オレたちだって協力するって!」


「私たちの気持ちも蛇道さまと同じです。またこうして同じ舞台に立てること、喜ばしく思います」


「ああ、滅びゆく国を救うために馳せ参じた勇士たちよ! 力を合わせ、この困難を共に乗り越えようではないか! 私たちならば、奇跡だって起こせよう!」


 ASMR配信で披露した高い演技力を活かして活躍してくれるであろう彼女たちは、今回の声劇でもかなり頼りになる面々だ。

 芝居がかった、されど本気で言っているであろうつららの発言に一同が笑みを浮かべる中、おずおずといった様子で男性が言葉を発する。


「なんか、あれですね。俺たちがこの場にいて、本当にいいのかな……?」


「何言ってるんですか! 参加してもらえて嬉しいし、感謝の気持ちしかないですよ! それに、男性Vtuberは結構貴重なんで、本当に助かります!」


「……うっす。マリ姉さんのためにも、やれることをやっていきます。炎上経験済みの底辺Vたちですが、よろしくお願いいたします」


 彼らはあのアルパ・マリが結成した個人勢Vtuberグループである、【反省厨】のメンバーだ。

 枢が大規模コラボを行うことを知った彼女は、彼の力になれそうな面子に声をかけ、この企画に参加してもらえるよう頼み込んだらしい。

 残念ながらマリ自身は【CRE8】からの共演NGを食らっているために参加できなかったが……彼女のお陰で貴重な男性やイラストを書ける人員を確保することができた。


 【反省厨】の面々もリーダーであるマリの望みを知っていることや、炎上を以て炎上を制するというコラボの目的が自分たちにぴったりだということもあってやる気を漲らせている。

 他の面子に比べるとチャンネル登録者や知名度に差があるため、気後れしている部分もあるようだが……彼らの声からは、そういったものに負けないぞという強い決意が感じられた。


「……演者だけで二十名とちょっと、裏方を合わせるともっと沢山の参加者がいる。結構な大所帯になったね」


「いいじゃないっすか! 大規模コラボって銘打ってるんですから、こんくらいじゃあないと!」


 複数の事務所と個人勢、様々な垣根を超えたメンバーが多く集まったことを素直に喜ぶ枢。

 これだけの面子をまとめ上げ、予定を管理するのは大変だろうが、彼女ならばそれができると信じていた。


「……あたしが、みんなをまとめるんだよね? なんか、すごくプレッシャー感じちゃうな」


 発起人である枢に代わって、ここに集まったVtuberたちに指示を出す座長となった紗理奈が自身の役目の重大さに緊張を募らせる。

 Vtuberだけの劇団を作りたいという夢を持つ彼女は、その夢が半ば叶っているようなこの状況に感激もしているようだが、それ以上にプレッシャーを感じているようだ。


 今、界隈を騒がせている炎上の元凶ともいえる自身の立場もあってか、負い目を感じている紗理奈であったが……そこを上手く、ライルがフォローする。


「大丈夫、君ならできるよ。彼ら彼女らと顔見知りの君なら、それぞれの適性や性格を把握しているはずだ。君の意見のお陰で脚本作りも捗ったし、君のやってきた行動が間違いじゃなかったことはそれが証明してくれている。不安な部分は僕もフォローするから、一緒に頑張ろう」


「……うん。ありがとう、ライルくん」


 やはり想い人であるライルの励ましが紗理奈の弱った心には一番効くらしい。

 彼と共に劇団を運営するという状況に確かな喜びを見出し、少しずつ気持ちを前向きにしていく彼女の様子に笑みを浮かべた枢は、参加者たちがそれぞれに自己紹介を終えたタイミングで話を切り替える。


「んじゃ、脚本をお配りしましょうか。とはいっても、まだ百パー完成したわけじゃないんで、少しずつ手直ししていく物ではあるんですけどね」

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