大規模コラボ、顔合わせ

 それからほどなくして、蛇道枢主催による大規模声劇コラボの開催は発表された。

 男女のコラボに関して敏感になっている現在のVtuber界隈ではその報告に対して賛否両論の声が巻き上がり、今も議論は続いている。


 こんな状況下で敢えて目立つようなことをする必要はないという者、事務所に所属している他のタレントのことも考えるべきという者、炎上商法ではないかと疑問を呈する者、反対派の意見は様々だ。

 逆に、こういったコラボを行うことを容認し、肯定する者たちは、枢をはじめとした参加者たちが自分たちの身の潔白とVtuber界隈のクリーンさをアピールしようとしていることを理解し、応援のメッセージを送っている。


 良くも悪くも注目を浴びるこの大規模コラボには、炎上の火種は数多く存在していた。

 上記の事情もそうだが、今回の騒動の元凶といえる【トランプキングダム】のメンバーも参加していること、更には素人である枢が脚本を手掛けることもそうだ。


 こういった事態を招いた人間たちは排除すべきではないのか? 劇として成功させるならば実績のある人間に脚本を任せた方がいいのではないか?

 否定的な声も噴出してはいるものの、その部分が話題となって高い注目を集めていることもまた事実であり、ファンたちは期待と不安を抱きながらこのコラボの行く末を見守っている。


 これだけの大規模コラボながら、準備期間は異様に短く設定されていた。

 そこもまたファンたちの不安を煽る要素となってはいるが、それはそれとして良いニュースも確かに存在している。

 枢の応募に呼応し、彼の意見に賛同したVtuberたちが思っていたよりも多くこのコラボの参加を表明したことがそれだ。


 彼の同期たちはもちろんのこと、先輩であり事務所内でも高い人気を誇る獅子堂マコトが枢の意見を支持し、必要があれば協力するという声明を上げたことで、【CRE8】の箱推しファンたちも覚悟を決めてこのコラボを後押しすることを決めた。

 彼女が直接このコラボに参加することはできないようだが、枢主宰の劇団には他の事務所からも名立たるメンバーが参加を表明している。


 本日は、その参加メンバーたちが一堂に会する日。

 この核融合を思わせる危険なコラボに乗った命知らずたちが、枢の手引きの下で顔合わせを行おうとしている。


 思っていたよりも多く、そして豪華なメンバーが集まったことに緊張しながら、コラボの発起人である枢は咳払いをした後で通話チャンネルに集まった面々へと話をし始めた。


「え~……まずはこの無茶で無謀な提案に乗ってくださった皆さんに発起人として感謝を伝えさせていただきます。本当に、ありがとうございます。下手をすれば燃え尽きるかもしれない危険なコラボですが、全員で協力することで苦難を乗り越えてですね――」


「お~い、話が長いぞ~! ついでに堅苦しい~!」


「緊張してるのはわかるけど、もう少し気軽にいった方がいいよ~! 枢くんがガチガチだと、私たちも緊張しちゃうからさ~!」


 慣れない挨拶をしている枢に対して、茶々を入れつつアドバイスを送るのは愛鈴とたらばだ。

 黙ってはいるものの、今回のコラボには芽衣とリアも参加しており、【CRE8】二期生は当然のように枢に力を貸しに来ている。


 彼女らの言葉に苦笑しつつ、どうしたもんかと枢が話を途切れさせれば、こういった状況を作ってしまった【トランプキングダム】のメンバーである優人ことライルが集まったメンバーへと謝罪も兼ねた挨拶をし始めた。


「……はじめましての方も多くいらっしゃると思います。【トランプキングダム】所属、ライル・レッドハートです。界隈が乱れる元凶となった僕たちがこのコラボに参加すること自体がおこがましい話なのですが、贖罪の意味を込めて全力で当たらせていただきます。どうぞ、よろしくお願いいたします」


 今回の騒動に関与していない、僅かな生き残りメンバーたちの代表として頭を下げるライル。

 片手で数えられるだけの人数になってしまった【トランプキングダム】のメンバーたちも少なからず緊張と気後れを感じているようで、彼に続いて強張った声で挨拶と謝罪の言葉を述べていく。


 だが、ここに集まったメンバーは彼らがいることを承知でコラボへの参加を決めた者たちであるため、今更そんなことを気にしている様子は見受けられない。

 むしろ彼らを歓迎するかのように、メンバーの一人が明るい声で声をかける。



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