翌日、報告を行う三人

「……なるほどね。事情はわかったよ」


「すいません、薫子さん。こんな大事なことをずっと黙っていて……」


「そこは気にしないでくれ。きちんと調査しなかったこっちの落ち度でもあるし、片がついたことだったなら問題があるわけでもないんだから。それよりも、もっと大事な話をしよう」


「【トランプキングダム】とのコラボについて、ですね?」


 事件から一夜明けた翌日の昼、零たちは社長室で昨晩にあったことを報告すると共に、過去に起きた澪と【トランプキングダム】とのトラブルとそこから続く脱退劇についても話をし、薫子の判断を待った。

 全ての話を聞いた後、難しい表情を浮かべた彼女は、最優先で解決すべき問題として暴挙に出たトラキンメンバーへの処遇を挙げる。


「騙し討ちみたいな真似をして店に連れ込んだ挙句、仕事や人脈の紹介をちらつかせて肉体関係を結ぼうとしたり、それが不可能とわかったら酔いつぶしていかがわしいことをしようとするだなんて、事務所を通じての抗議を通り越して警察沙汰になってもおかしくないレベルの話だ。沙織次第だが、警察に被害届を出すべき事案だと私は思ってるよ」


「私は……そこまですることはないかな、と思ってます。ギリギリとはいえほとんど被害はなかったし、警察沙汰にするよりかは【トランプキングダム】さんがしっかり処分を下して、その上で今回のコラボの件も含めてどうするかを考えた方がいいかな、って……」


「まあ、場合によっちゃあ警察もやる気を出してくれない可能性もあるからね。そこはあんたの意見を尊重するよ。ただやっぱり、私としてはサンユーデパートとのコラボから【トランプキングダム】のメンバーは抜けてほしいと思ってる。少なくとも、今回の件に関わった三人は絶対に、だ」


 当然といえば当然の話だが、こんなことをしでかした葉介たちとは別部門とはいえ一緒に仕事をしたくはないし、共に仕事をする仲間を売った恋なんて同じチームにいるべき存在ではない。

 彼ら三人を排除するのは当たり前として、被害に遭ったタレントの所属事務所としては【トランプキングダム】の完全撤退を要求するのもやむなしといった対応を取りたいと薫子は語る。


 だがやはり、優人のことを想う澪としては心苦しいものがあるのだろう。

 彼に対して負い目のある彼女が沈鬱な表情を浮かべる中、それに気づいた薫子が口を開く。


「澪、お前の気持ちはわからないわけでもない。過去の話を聞いた今、お前が何を考えているかはわかる。だけどね、今回沙織を手籠めにしようとした連中のような、夢を食いものにしようとする奴らをのさばらせておくわけにはいかないっていうのは、お前もよくわかっているはずだ」


「……はい」


「【トランプキングダム】のことも、狩栖くんの今後も、どうなるかはわからない。だが、このまま連中を放置しておくことは、Vtuber界隈全体にとっても良くないことなんだ。向こうの事務所がまともなら、まだ十分にやり直すことだってできる。それを信じて、ここは毅然と声を上げるべきだ……わかってくれるね?」


「……そうですよね。もうあたしや沙織ちゃんみたいに危ない目に遭う女の子を生み出さないためにも、そうするしかないんですよね……」


 澪の呟きは、自分自身に必死に言い聞かせているようだった。

 納得はできているのだろう。だが、心の何処かで優人のことを気遣ってしまう。


 だが、そんな生温い優しさなど彼は求めていないと、悪は悪として断罪することを彼が望んでいるのは、昨日の優人の言動からも明らかだと……それを理解している澪は、必死に自分自身の感情を押し殺して頷く。


「……沙織、悪いがもう少し詳しく話を聞きたいから、お前は残ってくれるかい? 澪と零は今日は帰っていい。もしかしたら改めて話を聞くことがあるかもしれないから、その時は頼むよ」


「うっす、了解です」


 薫子の指示に従い、澪と共に社長室を出ようとする零。

 ここからは代表である彼女に【トランプキングダム】とのやり取りを任せるしかないと、そう判断した彼が席を立った、その時だった。


「社長っ、大変です!!」


 勢いよく部屋のドアが開き、そこから息を切らせた社員の一人が飛び込んでくる。

 ただ事ではないその様子に誰もが驚く中、いち早く冷静さを取り戻した薫子が彼へと尋ねた。


「どうしたんだい、そんなに慌てて? 何かあったのかい?」


「こっ、これを見てください!!」


 そう言いながら、飛び込んできた社員が大画面のタブレットを社長室のテーブルの上へと置く。

 他の三人と共にその画面を覗き込んだ零は、そこに映し出されている画像を見て驚きに目を見開いた。

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