トランプキングダム・会議室にて

「納得がいかねーんですけど?」


 都内某所にあるVtuber事務所【トランプキングダム】の本社、その会議室。

 そこで話し合いをしていた四名の男性たちの内、一人の男が手を挙げて発言する。


 やや長めの金髪と華美なアクセサリーたちが特徴的な彼は、比較的整っている顔面を不愉快そうに歪めながら吐き捨てるようにして言う。


「どうして俺は女がいないグループに回されたんすか? 他の二つは男女混合なのに、俺のところだけ男だけっておかしいでしょ?」


「いや~、そりゃあな~……まあ、色々あるし、わかるだろ?」


 怒りを滲ませながら文句をつける男に対して答えたのは、この会議を取り仕切っている男性だった。

 他の三人よりも一回り年上の、されどそれを埋めるように若作りをしている風貌の男性は、ワックスとヘアスプレーで固めた髪を掻きながらこう答える。


「お前は以前に女性へのセクハラ発言で燃えてる上に、前世がヤバいってファンに広まっちまってるからなあ……まだ女と絡ませるわけにはいかないって」


「知ってるっすよ。でも、こんな腫れ物扱いばっかりだとこっちだって気が滅入るじゃないっすか」


「まあまあ、落ち着きなよようちゃん。カリカリしたってしょうがないじゃん!」


「気持ちはわかる。でも、今はその時じゃあないよ。信頼を積み重ねて、その後だ」


 社長と、同期たちからの言葉に再び顔を歪めて不機嫌さを露わにした彼の名は、黒羽葉介くろばねようすけ……【トランプキングダム】所属、クローバーのキングことアレキサンダー・ロッドを担当している男性である。

 残りの三人も同じく、【トランプキングダム】所属のVtuberであり、それぞれのスートの代表となる面子だ。

 当然、その中にはハートスートの代表である優人の姿もあり、彼は冷静に葉介のことを窘めていく。


「炎上から腫れ物扱いされ続けてストレスが溜まってるっていうのはわかる。だけど、こうなってしまった要因の一つが自分にあることもわかってるだろう? 叩かれた時に素直に謝罪しておけば、それで済んだはずだ」


「……そりゃあ、そうだけどよ」


 優人の指摘を受けた葉介が一気にトーンダウンして歯切れの悪い返事をする。

 そんな彼に対して、残る二人のキングたちが続けざまにダメ出しをしてきた。


「葉ちゃんもドジったよね。プライドを捨てて謝れば、過去を掘り返されたりしなかったってのにさ」


「お前はそういう気位が高いところがあるからな。いいところでもあるが、それが悪く働いたってわけだ」


「……社長も大也も俺が燃えた時にヘラヘラしてたくせに。そのせいで鎮火が遅れたってのも――」


「黒羽! ……ここで言い争っても仕方がない。落ち着いて、元通りに活動できるようになるまでのプランを練っていこう」


 仲間たちからボロクソに叩かれ、プライドを傷付けられた葉介が激高して二人へと叫ぶ。

 そんな彼を制止した優人は、丁寧な言葉で葉介を落ち着かせると共に不用意な発言をした代表と同期へと視線を向けた。


「剣山さんも小森も、無暗に人の失敗を煽る真似はしないでください。今更その話をしても遅いですし、これじゃただ黒羽を傷付けるだけだ」


「は~い……」


「あ、ああ……悪かったよ、優人。葉介もすまん、調子に乗り過ぎた」


 そう言って頭を下げる男性の名前は剣山一聖けんざんかずあき。この【トランプキングダム】の代表であり、スペードのキングに位置するタレント、ソード・デルビダンの魂を担当している男性だ。

 もう一人、優人に叱られたことに対して反省しているのかしていないのかわからない微妙な表情を浮かべながら舌を出している小柄な彼は、残るダイヤスートのキングであるセザール・カラットこと小森大也こもりひろや。これでも一応、成人済みである。


 これが、【トランプキングダム】が誇る四大タレントたち。自分たちの特技を活かし、更に王子様売りで人気を博した彼らだが、Vtuberとしての風貌と実際の容姿は大分かけ離れている。

 特に代表の一聖に関しては他の三人と年齢に差が開いていることもあり、Vのガワも若作りしているようにしか思えない。

 そしてここまでの話し合いを見てもわかる通り、ノリも口も大分軽い彼の不用意な言動に辟易としている優人は、こぼれそうになるため息を必死に堪えていた。


「とにかく、だ……今言った通り、優人はデザート部門、大也はドリンク、葉介はオードブル部門に所属して、サンユーデパートとのコラボに参加してもらう。複数のVtuber事務所が協力して行うデカいプロジェクトだ。これを成功させれば、俺たちの人気も一層高まる! 粗相のないように、しっかり頼むぞ!」


 改めて話し合いを再開した一聖が三人に檄を飛ばすも、彼らの心にその言葉は大して響いていないようだ。

 当の本人は色々と気苦労の多いプロジェクトにタレントとして参加しないこともあってか、面倒な仕事を押し付けたようにしか思われていない。

 特に腫れ物扱いされた上でこのコラボに参加する羽目になった葉介は、どうせなら一聖が自分と代わればいいのにと心の中で思っているようで、その考えが顔に浮かび上がっていた。 


「そんなに怖い顔しないでよ、葉ちゃん。やってみれば、案外楽しいかもしれないよ?」


「うるせえ。黙ってろよ、大也」


「……あんまりピリピリするなよ。この後、後輩や同期に会議で話し合った内容を報告するんだ。その時、無用なプレッシャーを彼らに与える必要はないだろう?」


 無神経な発言をする大也と、そんな彼の言葉に不機嫌さを高めた葉介を再び窘める優人。

 そんな彼の言葉に大きな舌打ちを鳴らした葉介が、鋭い目で優人を睨みつけながら言う。


「……いいよな、お前は。この仕事で愛しのお姫様と再会できるんだからよ」

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