恋バナも、ラジオも終わって

「えっ!? そ、そうなんですか……?」


「うん。かわいいか綺麗かでいったら、綺麗の方が好き、みたいな感じかな」


「あっ、ふ~ん……」


 マズいことになったと、心の中の動揺を必死に隠しながら相槌を打つ零。

 外見に関しては完全に澪とかけ離れた趣味を持つという優人の答えに声を震わせつつも、一縷の望みを託して今度は内面についての話を聞いていく。


「じゃあ、その、性格はどうっすかね? 明るい人の方が好みとか、そういうのありません?」


「う~ん……好みかどうかと聞かれると微妙かな? 僕の場合、あんまりべたべたするような関係は得意じゃないから。一定の距離感を保って付き合える人が理想かもね」


「おぅふ……」


 優人の好みをまとめると、あまりべたべたしてこないクール目な性格をしたスレンダー美女ということになる。

 ということはつまり、事あるごとに胸やら尻やらを押し付けてくるお茶目なロリ巨乳美少女である澪は、完全に彼の好みの範囲外ということだ。


 これは流石に想定外だった。少なくともどこかに澪に引っかかる部分はあるだろうと期待していた零は、空振りにも程があるレベルの趣味の外れっぷりに頭を抱えてしまう。


 どうかこの配信を澪が観ていませんように……と、彼女が傷付く可能性が高い優人の発言が澪の耳に入らないことを必死に祈る零であったが、そんな彼へと一拍間を空けた上で優人がこんなことを言い出した。


「ただ、ね……僕みたいな性格の人間が恋人を作るなら、相手にリードしてもらうしかないような気もするんだよね。下手をすると家でず~っと仕事ばっかりして引きこもってる男だから、強引に外に連れ出したり、向こうから家に突撃してもらわないと、一緒に過ごすって考えすら思い浮かばなそうだしさ。そもそもが恋愛に向いてないんだよ、僕は」


「い、いやいや、そんなことないんじゃないですかね? やっぱり彼女に振り回してもらうっていうのも楽しそうですし、レッドハートさんの器の大きさなら、大概の相手も受け止められるんじゃないかなって、俺は思います!」


 ここに関してはもろにドンピシャである。

 先日の居酒屋で見せた、澪に振り回される優人の姿を思い浮かべた零は全力で彼の意見を肯定した。


 こういうことを言うくらいなのだから、彼も決して澪に振り回されることを悪くは思っていないのだろう。

 願わくば、このまま翻弄され続ける中で楽しみというか、喜びを見出してほしい……と願う零からなんだか必死に同意された優人は、苦笑を浮かべながら彼へと話を振る。


「そう? ありがとうね。さあ、次は蛇道くんの番だよ。君は、どんな性格の女性が好みなのかな?」


「あっ、えっと、そうですねえ……性格っていうより、お互いに尊重し合えるような関係を築ける人がいいとは思いますかね。何かあったらきちんと話し合って、自分の意見だけを押し付けるんじゃなく、相手の意見と擦り合わせて、問題を解決できるような、そういうふうになれる人が好き……でいいのかな?」


 これはちょっと回答として相応しくないような気がするとは思いながらも、自分なりの考えを答えとして述べる零。

 その答えを聞いた優人は暫し押し黙った後、小さく息を吐いてから納得したように言う。


「なるほど。大切だよね、そういうの。相手と意見を擦り合わせる、そういう関係性を築く……恋人として、理想的な形だと思うよ」


「あ、ありがとうございます……なんか恥ずかしいっすね、こういうの」


「あはは! まあ、お便りを送ってくれた人も満足してくれただろうし、この辺で恋バナも終わりにしようか。さて、お次はっと――」


 理想の恋人についての話を終えたところで恋バナを打ち切った優人が次のお便りを探し始める。

 この後も楽しく会話を続け、リスナーたちからの質問に答えては場を盛り上げ、ついでにサンユーデパートとのコラボ企画についても触れながらトークを進めていけば、あっという間に時間は過ぎていった。


「うわ、もう一時間経とうとしてるのか。話に夢中になってて気が付かなかった」


「本当だ! ちょっとびっくりっすね」


 楽しい時間は経つのが早く感じるというが、全くもってその通りだ。

 一時間のラジオ配信が終わりに近づく中、今日のコラボに充実感を覚えている零へと優人が言う。


「今日は本当に楽しかったよ。ここまでお喋りに夢中になったのは久しぶりだ。また、こうやって何かできたら嬉しいね」


「こちらこそ、誘ってもらえて嬉しかったです! 今度はゲームとかしましょうよ! 色々と面白いの知ってるんで、協力でも対戦でもなんでもいけますよ!!」


「いいね。でも、その前にやることがあるだろう?」


「……ああ、そうっすね。とりあえずですけど――」


 どこか含みのある優人の言葉を聞いた零は、彼が何を言いたいのかを理解して笑みを浮かべる。

 一度、言葉を区切った後で彼らは、全く同じことを同時に言い放った。


「「明日、一緒にラーメン食べに行こう!!」」

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