配信初の、恋バナ

「恋バナですか。これは攻めたお便りがきたなあ……!」


「下手をすると炎上する内容だけどね。そこは蛇道くんの手腕に期待して、やってみようか」


「う~わ、責任を被せてきたよ。これは燃えたらレッドハートさんも道連れだな」


【お互い相手に遠慮しなくなってきてて草】

【仲良しだねえ! 君たち、本当にこれが初コラボ?】

【二人のコミュ力の高さ出ちゃってるよ!】


 この頃になると最初の緊張もどこへやら、零は普通に楽しく優人と会話ができるようになっていた。

 優人の方も零との会話を楽しんでいるようで、やや浮かれた雰囲気で彼のことを弄るようになっており、リスナーたちもそんな二人のやり取りを楽しんでくれているようだ。


 恋バナ、というあまり縁のない話であり一歩間違えれば炎上不可避の話題に関しても嬉々として臨む二人は、危なげなくトークを進めていく。


「でも俺たち、今は恋愛とかできないですよね。スキャンダル怖いとかそれ以前に、相手がいないっていう」


「これさ、みんなには信じてもらえないかもしれないんだけど本当なんだよね。周りに女の子はいっぱいいるだろ、って言われるけど、そういう相手としては見れないっていう」


【とか言って、本当は……なんでしょ!?】

【くるるんの場合は恋愛通り越して結婚までいってるから……】

【え~? 本当でござるか~?】


「マジのマジなんだって。でもそうだよなあ、理解されないよなあ……」


「逆に考えてほしいんだけどさ。みんなが社会人だったとして、会社の女の子を彼女にしようと思う? 社内恋愛してる人とか、みんなの周りにどれだけいる? そう考えると僕たちの気持ちもわかってもらえると思うんだけど……」


【あ~……確かに俺の周りにはいないや、社内恋愛してる人】

【会社の人間と恋愛関係になると色々とリスク背負うもんね】

【別れた時とかつらそう】


「恋愛って別れる時のことを考えてするもんじゃないとは思うけどな。でもやっぱ、Vtuberに限らず色んな職でも、社内恋愛ってリスク高いと思うね、俺は」


「いいね、恋愛って別れる時のことを考えてするもんじゃない、か。この言葉に蛇道くんの恋愛観が出てるよ」


【割とロマンチストよな、くるるんって】

【そういう青臭いところ、好きだぞ!】

【若いねえ……! おじさんにもそんな時代があった……いや、俺恋愛したことねえからそんな時代もねえや】

【↑涙拭けよ】


「……羨ましいな。僕はどうしても別れる時のことを考えちゃう嫌な男だから、蛇道くんのそういう無垢さが眩しく映るよ」


「いや、でも実際恋愛したわけでもないですし、年齢イコール彼女いない男の哀れな妄想みたいな部分もありますんで……」


「僕もだよ、うん」


【意外だな。まあ、本当のことを言うわけにもいかないんだろうけどさ】

【枢はロマンチストでライルはリアリスト、解釈一致です】

【男子の恋バナってやっぱりいいね! 聞いててドキドキする!】


 恋愛に対するポジティブだったり、ネガティブだったりする部分を見せる二人。

 あまり過激なことは言えない彼らの話題は恋愛観から定番の内容へと移行していく。


「ちなみになんですけど、どういう女性がタイプとかあります? やっぱみんなもその辺のことが聞きたいんじゃないかなって思うんですけど」


「……それは外見? それとも性格? どっちの意味かな?」


「どっちもでいきましょう。順番に答える感じで」


「OK。じゃあ、外見の方から。言い出しっぺなんだから、蛇道くんが先に答えてくれるよね?」


 どんな女性がタイプか? という質問に対して、自然な形で零に先に答えさせる流れを作り上げる優人。

 苦笑を浮かべながらもその流れに乗った零は、小さく息を吐いてからこう答える。


「外見に関しては本当にこだわりとかないんですよ。清潔感があることくらいですかね?」


【嘘つけ、お前は巨乳好きだろうが】

【おっぱいは大きい方が好きなんだルォォ!?】

【お前の趣味は把握済みだ! 正直に吐けっ!!】


「……って、コメント欄でみんなが騒いでるんだけど?」


「そこに関しては否定しませんけど、別にそこを重視してるわけじゃあないですからね!? 小さいよりも大きい方が好きってだけで、大きくなくちゃだめだって言ってるわけじゃあないですから!」


 既に周知の事実レベルまで広まっている巨乳好きという噂を半分肯定しつつ、もう半分は否定する零。

 自分の反応をクククと喉を鳴らして笑う優人に対して、彼はこう問いかける。


「次はレッドハートさんの番ですよ? お好みのタイプを教えてください!」


 これは地味に重要な質問だ。

 澪が彼に想いを寄せていることを知っている零からしてみれば、できれば優人の回答は彼女に近しいものであってほしい。


 だが、しかし……優人の答えは、そんな零の期待を裏切るようなものであった。


「あはは、そうだね。う~ん、外見に関して言うのであれば……僕は、蛇道くんとは真逆かな。モデル体型っていうの? スラっとしてるスレンダーな人の方が好きかも」

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