検証のための作戦、開始!
「そういうことになる……んですかねえ? まだはっきりとはわからないっすけど、かなり可能性は高いと思うっすよ」
「で、でも、あの零くんですよ? 真面目でしっかり者の零くんがそんなことをするだなんて、私には信じられません!」
「わーも、入江さんと同意見だ。何がのお料理さ使うだめに買ってぎだどが、そったんじゃあねんだが?」
「あるいは誰かに頼まれて一時的に保管してるとか……そういう可能性もあるんじゃあ……」
あの零が、皆に隠れてこそこそと飲酒をしている。
そんなこと信じられないと声を上げた有栖に同調するように、スイと沙織もその可能性を否定した。
だがしかし、普段ならばここで退くはずの梨子も、今回は割と本気で自分の意見は間違っていないと声を上げ続ける。
「自分もそう思いたいっすよ~! でも、でも、あれは間違いなくビールだったんです!! 仮にお料理に使うものだったとしても未成年がお酒を買うのは違法っすし、わざわざ誰かが坊やの家にビールを預ける必要なんてないじゃないっすか~!! きっと、坊やは自分たちに隠れてお酒を飲んでるんすよ~! こんなことが世に知れたら、大炎上どころか引退待ったなしっす~っ!! お~いおいおいお~い!!」
弱気で意志薄弱な彼女がここまで言うということは、自分の見た物が間違いなく缶ビールだったという確信があるということだろう。
ここまでの話を聞き、梨子の悲観的な意見も聞いた天は、同期たち三人とは反対に彼女の意見を支持するようなことを言い始める。
「……あながちあり得ない話、ってわけじゃあないかもしれないわね。零の容姿なら二十歳以上だって言っても疑われることなんてないし、コンビニとかなら年齢確認もザルだから簡単に買うこともできるもの」
「天ちゃん、なんてこと言うの!? 零くんがそんなことするわけないさ~!!」
「でもさ、ちょっと考えてみてよ。Vtuber生活って、想像してる以上のストレスを抱えるものよ? しかも零は事あるごとに燃やされて、その対処に回る羽目になって、体調を崩すくらいの心労に襲われてて……そのストレスを忘れたくって酒に逃げた、って可能性も十分にあり得るじゃない」
「そんな……! でも、でも……っ!!」
天の話を聞けば聞くほどに、零が酒を飲んでいるかもしれないという思いが深まっていく。
確かに彼は二期生どころか【CRE8】全体で見ても一、二を争う苦労人だし、抱えているストレスは有栖たちの何倍にも上るはずだ。
もしも零が、日々のストレスから逃げるために酒に手を出してしまったとしたら……。
そしてそれが恒常化して、中毒めいた状態になっているとしたら……。
その事態が露見して炎上するなどという生温い話ではなく、彼自身の人生にも影響が及ぶかもしれないという可能性に思い至った有栖が顔を蒼白に染める。
スイも、沙織も、もしかしたら……という疑念を抱いて言葉を失う中、一人泣きじゃくっていた梨子が大声で叫ぶようにして彼女たちへと言った。
「じ、自分も、決して坊やを信じてないわけじゃあないんです。でも、ここで盲目的に信じて、見て見ぬふりをするわけにもいかないじゃないっすか! だ、だから、ここは坊やと仲のいい二期生の皆さんの力をお借りして、真相を突き止めようと思ってるんです!!」
「……零くんが本当にお酒を飲んでいるのかどうか、私たちが探りを入れる……そういうことですね、加峰さん?」
「そうっす。これが自分の勘違いだってわかったのなら、それはそれで良し。でも万が一、坊やがお酒を飲んでいるという決定的な証拠が出てしまった場合は――」
ごくり、と揃って息を飲んだ面々は、想像したくない最悪の事態に備えて心構えを固めていく。
本当に悲しいことに……暗い部屋の中、炎上に対して愚痴を吐きながら缶ビールを煽る零の姿が想像できてしまうことを残念に思いながら、どうかこれが自分たちの杞憂でありますようにと願う一同は、梨子の意見に同意すると共にこの作戦に乗ることを決意した。
「……わかりました。私は零くんを信じていますし、大丈夫だって思っています。潔白を証明するために、私も協力します」
「私もそうさせてもらうさ~。万が一のこともあるけど、年下の男の子が道を誤っていたらそれを正すのが大人の役目だもんね~」
「酒のトラブルに関しては私が誰よりも精通してるからなあ……あいつに同じ轍を踏ませないためにも、ここは乗らせてもらうわ」
「わ、わーも! なにがでぎるがはわがらねげど……阿久津さんのだめにやれるごどやります!!」
「うっ、ううっ! ありがとう、ありがとう……! 坊やは本当に、いい同期に恵まれてるっすね……! ママ、感激……!!」
それぞれの決意表明を聞いた梨子が涙を流しながら二期生の絆に感動するも、そのせいでどうにも締まらない空気になってしまっていた。
まあ、それはさておき、零が本当に飲酒をしているのかどうかを確かめるために動き出した有栖たちは、その真相を突き止め、彼の身の潔白を証明するための作戦をああでもないこうでもないと話し始め、早速決行に移るのであった。
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