看病する、ロリ組二人
「おかゆ、買ってきてくれたんですね。私、忘れちゃってたから、助かりました」
「逆に私の方はおかゆ以外何も持ってきてないんだけどね。ドリンクとか熱さまシートとか、そういうのを揃えてきた有栖ちゃんに感謝だわ」
それからおよそ十分後、零一人を寝室に残してリビングにやって来た有栖と天は、それぞれが持ってきた荷物を確認しながらそれを整理していた。
有栖がすぐには使わない熱さまシートや栄養ドリンクを冷蔵庫にしまい、天はアルミパウチのレトルト粥をテーブルへと並べて、零の食事の準備を行いながら、二人は会話を重ねていく。
「やっぱ行動が早いわよね、有栖ちゃん。零のために色んな物を買ってきた上で一番に駆け付けるだなんて、流石は正妻って感じ」
「私は零くんと同じ寮住まいですから。そういう秤屋さんこそ、かなり早い段階でお見舞いに来てくれたじゃないですか」
「そのせいで夫婦の蜜月を邪魔しちゃった感が否めないけどね。本当に私、残ってていいの? 帰った方がよくない?」
「私一人じゃあ不安もありますし、零くんのためにも秤屋さんが手伝ってくれると安心できるので、むしろ大歓迎ですよ」
「そう? なら、いいんだけどさ……」
数種類あるおかゆの袋を見つめ、今回の食事はどれを使おうかと悩みながら有栖に応える天。
そんな彼女の姿をじっと見つめた後、有栖が再び口を開く。
「……やっぱり、夏のことを思い出しちゃいますよね。秤屋さんも心配だったからこそ、こんなに早く駆け付けてくれたんじゃないんですか?」
「……まあ、ね。ほら、私ってばその事件においては一番の加害者っていうか、最後のトドメ刺した奴っていうかさ……有栖ちゃんの言う通り、やっぱ零が体調不良って聞くとその時のことを思い出しちゃうし、人一倍不安にもなるってことは否定できないわよね」
正直に自分の胸中を語った天が口元を歪め、自虐的な笑みを浮かべる。
なんだかんだで零のことを気にかけているというか、過去のことを気にしている彼女の反応に小さく頷いた有栖は、若干のトラウマを抱えているであろう天に対してその不安を取り除くような優しい口調で語り掛ける。
「大丈夫ですよ。零くんも私も、あの事件に関しては気にしてませんから。こうして秤屋さんが大急ぎで駆け付けてくれたことを、素直に感謝してます」
「そう言ってもらえるのは嬉しいけどね。でもやっぱ、簡単に切り替えることはできないわ。向こう数年は引き摺りそうよ」
「……その気持ちはわかります。でも、秤屋さんが同期のことを大切に想ってるってことも理解してますから、そんなにご自分を責めないでくださいね?」
「……ありがと、有栖ちゃん」
随分と前のことにようで、つい昨日の出来事のようにも感じられる自分のミスを年下に慰められることへの気恥ずかしさに、天が有栖に背を向ける。
あっけらかんとおどけることもできないなと、どうにもこういう時にどう振る舞ったらいいのかがわからずにいる彼女は、電子レンジの扉を開けながら少しだけ明るい口調で有栖へと言った。
「あれよね、最近はレトルト食品も便利になって助かるわ。料理できない私たちからすると、温めるだけでおかゆが作れるなんて夢みたいだもの」
「ふふふ……! そうですよね。あ、私、お皿用意しておきますね」
「ありがとう、有栖ちゃん。後で零の奴にあ~んでもしてあげたら? きっとあいつも喜ぶわよ」
そんなふうに、若干ではあるもののいつもの雰囲気を取り戻した天はぽいっと電子レンジの中にレトルトのおかゆを放り込んでから適当に『温めスタート』のボタンを押したわけだが……ここで一つ、彼女はとても重大なミスを犯していた。
彼女が買ってきたおかゆは、アルミパウチのレトルト製品である。
そういった品は、基本的に【レンジで温めOK】の表記がない場合は電子レンジに突っ込んではいけないのである。
有栖も天もそういった知識が皆無であったことや、会話に意識を割いていたことが災いして、その常識とでもいうべき事実に気が付かなかった。
その失敗の結果は、即座に二人の前に顕現することとなる。
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