二大怪獣、Cマートを襲撃!
「うわ、なんかやってるよ。今日からだったっけ? 【CRE8】のコラボが始まるの」
「Cマートもセンスねえよなあ。コラボするんだったらこんな奴らよりも【トランプキングダム】の方がいいに決まってるのにさ」
「うん……?」
客の来店を告げる電子音と共に聞こえてきたその会話を耳にした界人が目を細めて自動ドアの方を見やれば、そこには二人組のオタクと思わしき男たちの姿があった。
その会話の内容と彼らの雰囲気に嫌なものを感じた界人は、そっとクリアファイルが並んでいる棚から離れるとアイス売り場を物色しているふりをしながら、彼らの会話に耳を傾ける。
界人と入れ違いになるようにして棚の前にやって来た彼らは、そこに並ぶ二期生たちの姿を見ながら嘲笑交じりの話をし始めた。
「ショッッボッ!! わざわざ全国展開のコンビニとコラボして、この程度の絵しか描けないのかよ? 【CRE8】のイラストレーターって終わってんな」
「事務所の代表とかVtuberと兼任してるからダメなんだろうさ。まあ、本気で描いたとしても程度は知れてるけどな」
(よし、殺そう。理由をつけて射殺しよう)
初手、しゃぼんの絵をディスることから始まった彼らの会話を聞いた界人は、即座に二人の抹殺を決定した。
国家権力をフルに使ってこの男たちを追い詰めてやろうと過激派が怒りの炎を燃やす中、二人組のオタクたちは界人の怒りを強めるための追加燃料を投入していく。
「結局は女人気が凄いだけの事務所だろ? 男女バランスよく人気を集めてるトラキンを見習えよな」
「完全におっぱいで釣ってるだけの女が一人いるじゃん! あと、こっちの銀髪美女ブームに乗っかっただけの奴もさ~、クールでいくのかアイドルさせんのかどっちつかずの絵を描いてんじゃねえよ!」
おそらくはたらばのことを馬鹿にした後、制服衣装と私服衣装とで雰囲気が全く違うリアのファイルの絵を見たであろう男たちがギャハハと笑いながらそれをまた酷評する。
心の中で彼らの発言に怒りを蓄積させていく界人は、買い物かごを持つ手に段々と力を込めながらその会話を聞き続けた。
「この二人だっけ? カップル営業で人気稼いでる奴らって? そういう方法でしかリスナー集められないのって残念だし、配信上だけの絡みを見ててぇてぇ言ってる【CRE8】ファンってキモいよな~」
「どうせ裏では大した絡みもないくせにさ、CP厨を呼ぶために無理して頑張ってんだろ。裏でも仲が良いトラキンと違って、必死過ぎて草なんだけど」
(よし、殺すのは中止だ。拉致ってくるめいの良さが理解できるようになるまで語り尽くしてやろう。その後で火刑に処してやることにしよう)
一周回って逆に冷静になってきた界人は、菩薩のような表情を浮かべながら非常に物騒なことを考えていた。
界人の正体を知らないとはいえ、くるめい過激派の前で二人を馬鹿にするだなんてとんだ命知らずもいるもんだなと思いながら、彼は落ち着き始めた心で少しずつ考えを深めていく。
どうやらこの二人、したり顔で二期生のことを馬鹿にしているようだが……その実、五人についての情報はまるで知らないようだ。
ここまで二期生たちの名前を誰一人として口に出していないことや、たらばのアピールポイントやリアの二面性やくるめいの尊さを知らないことから考えても、【CRE8】のファンどころかアンチですらない可能性が高い。
だがしかし、【CRE8】の存在を知っていることや、同じVtuber事務所である【トランプキングダム】の名前を連呼し、そちらを上げ続けていることを考えると、Vtuberのファンではあるのだろう。
Vtuberのファンないしオタクであり、推しの事務所が存在し、それ以外の事務所を引き合いに出してはそれを乏しながら推しを上げる発言を繰り返すその行いを目の当たりにした界人は、心の中でぽんと手を叩くと納得したように呟いた。
「ああ、なるほど。これが対立煽りってやつか……!」
対立煽り、あるいは対立厨とは、事あるごとに喧嘩を吹っかけて対立を煽る暇人のことである。
Vtuber界隈においては、主に特定の事務所の応援する箱推しファンと呼ばれる存在が別の事務所を推しているファンに対して喧嘩を吹っかけることを指す言葉だ。
配信の同時接続数、再生回数、登録者数、他にも沢山、その気になれば相手方にマウントを取れる要素なんてものは簡単に見つかる。
それを盛大に掲げ、相手が推しているタレントごと全力でぶん殴る対立煽りは、他事務所だけでなく同じ箱推しファンたちからも嫌われる存在であった。
おそらく今回は、【トランプキングダム】の箱推しファンである彼らが全国チェーンのコンビニエンスストアであるCマートと【CRE8】がコラボしている様子を見て、勝手にマウントを取られた気分になってしまったのだろう。
勝手にプライドを傷付けられたと思い込んだ彼らは勝手に復讐を決意し、あまりにも身勝手な理由で大して詳しくもない二期生たちをネットのノリで叩いている……ということだ。
寒い、そして痛い。本人たちは気が付いてないのかもしれないが、今の彼らは見ていてドン引きするような会話を繰り広げている、危ない人たち以外の何者でもない。
つい先程まで彼らに対する怒りを燃え上がらせていた界人ですらも、なんだか逆に男たちのことが哀れに思えてきていたのだが……この直後、男たちはそんな状態の彼ですら見過ごせない発言をしてしまった。
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