目標達成! やったねウオミー!

『枢くんさぁ……芽衣ちゃんのことは名前で呼ぶのに、ボクのことは魚住先輩呼びだよね。同期と先輩じゃあ話が違うっていうのはわかるけど、こんなふうに明らかな差をつけられると、ボクもちょっと凹んじゃうな』


『あ~、う~ん、あ~……いや、まあ、はい。確かにそこは俺も気になってたっちゃ気になってたところなんだよなぁ……』


【言われてみれば確かに。くるるんだけウオミーと距離があるな】

【ウオミーの方は名前呼びなのに、枢は先輩呼びしてるのは俺もちょっとだけ気になってたから、本人から指摘が出るのはありがてえ】

【このままだとくるめいの間に挟まれる可哀想なウオミーになっちゃうし、くるるんも少しは考えたら?】


『ほら! みんなもこう言ってるよ!? 確かに馴れ馴れしくし過ぎてリスナーさんたちから目を付けられるが怖いっていう枢くんの気持ちはわかるけど、この状況でまだ呼び方を変えないっていうんだったら、そっちの方が炎上しちゃいそうじゃない?』


『う~ん……』


 枢へと前々から気になっていた苗字呼びのことをしずくが指摘してみれば、配信を観ているファンたちや芽衣もまた彼女を援護して枢のことを問い詰めた。

 彼自身も少しは違和感を覚えていたようで、その指摘を尤もだといった様子で唸り声を上げて悩んでいる。


『……ダメ、かな? ボクはその、嫌じゃあないんだけど……』


『あ~……まあ、そうだよな。普通に考えて、お揃いの衣装を自発的に考えて実装した癖によそよそしく苗字呼びっていうのは逆におかしいよなぁ……よしっ!』


 最後のダメ押しとばかりに上目遣いでの一言で枢にそう問いかけてみれば、彼もまた覚悟を決めたとばかりに頷いた後で手を叩く。

 そして、しずくや芽衣、多くのリスナーたちの前で、堂々と宣言してみせた。


『変えましょうか、呼び方! 礼儀とか立場を考えるならしずく先輩ってのがいいんでしょうけど、今後も【Milky Way】として三人で活動していきたい気持ちはありますし……そこで芽衣ちゃんと差をつけるのは良くないと思うんですよね』


『……つまり?』


『ええっと……呼び方、しずくちゃんでいいですか?』


 少しだけ恥ずかしそうに、しかしはっきりと枢が自分の名前を呼んでくれたことに、満面の笑みを浮かべるしずく。

 ぱあっと表情を明るくした彼女は、そのまま大声で彼へと肯定の返事をした。


『うんっ! もちろんだよっ! あっ、でも敬語は禁止ね! 芽衣ちゃんと同じにするっていうなら、そこも変えて普通の友達みたいに話そうよ!』


『はい……じゃなくて、うん。わかったよ、しずくちゃん。これでいい?』


『うん、うんっ!! それでいい! それがいいよ!』


『やったね、しずくちゃん! 目標達成だよ!!』


『ありがとう、芽衣ちゃん! みんなも本当にありがとうっ!!』


【8888888888】

【くるるんと仲良くなれてよかったね、ウオミー!】

【名前呼び&タメ口は芽衣ちゃんに続いて二人目か。愛鈴をどう判断するはわからんけど、平常時は敬語だしまあいっか!】


 一歩枢と仲を深めることに成功したしずくへと寄せられる、無数の祝福の声。

 親友である芽衣や、彼女のことを応援しているファンたちも彼女の喜ぶ姿を笑顔で見守ると共にその頑張りを褒め称えている。


 そんな中、珍しくテンションが上がって上機嫌なしずくは、にへらとだらしない笑みを浮かべながら何度も枢のことを呼び続けていた。


『えへへ~……枢く~ん!』


『なに? しずくちゃん?』


『えへへへへへ……呼んだだけ~! ねえ、もう一回ボクの名前を呼んでよ!』


『いいけど、そんなに嬉しいの? なんか今日、テンション迷子じゃない?』


『そりゃあ嬉しいって! ボクにも同い年の男の子の友達ができたんだもの! えへへへへへへ……!!』


 もはや上機嫌を通り越して頭の中にお花畑ができあがっているのではないかと思わせる程に浮ついているしずくのことを、苦笑気味に見守る枢。

 たかが名前を呼ぶ程度のことでここまで喜んでもらえるのか若干呆れつつも、決して悪い気はしないなと考えていた彼であったが……?


『………』


『……芽衣ちゃん? あの、どうしたの? なんか、無言じゃない?』


 ふと、もう一人の参加者である芽衣の表情が曇っていることと、彼女が無言になったことに気が付いた。

 つい先程まで親友であるしずくのことを祝福していたはずなのに、急にどうしたんだろうか……という疑問を枢が率直にぶつけてみれば、芽衣は少しだけ拗ねた様子で彼へとこう返す。


『……なんだか除け者にされてる気がするなって、ちょっともやっとした。二人が仲良くなれたのは嬉しいんだけど、枢くんにしずくちゃんを、しずくちゃんに枢くんを取られちゃったみたいな気持ちになって、寂しいなって……』


『おおっとぉ……!?』


 芽衣からの正直な感想に対して困惑を通り越して言葉を失う枢。

 拗ね気味の芽衣の様子は実にかわいらしく、初めて見るジェラシーを滲ませた彼女の反応に枢がドキドキと心臓の鼓動を早める中、リスナーたちは祭りだとばかりにコメントを連打し始める。


【#嫁の前で他の女とイチャつくな枢】

【これは……久々に黒羊さん爆誕ですかね!?】

【くるるん取られて寂しそうにしてる芽衣ちゃん、よき……!】

【浮気は重罪。刑罰は火刑ってことでよろしく】

【平等に扱わなくちゃいけないっていうのは大変だなぁ……頑張ってバランス取れよ、枢!】


『うん、こうなる気がしてた。でもまあ、こういう面倒臭さも友達が増えたからなんだって思えば受け入れられる気がするし、芽衣ちゃんもしずくちゃんもどっちも大切な存在だからな。誰かが言ってた通り、どっちも等しく大事にさせていただきますわ』


【おおっとぉ!? 重婚発言か、今のは!?】

【言うじゃねえか、枢! なら、覚悟はできてるんだろうな!?】

【宴じゃ祭りじゃ~っ! 火炎瓶ダースで持ってこーい!!】


『はっはっは、いくらでもかかってこいや。この件に関しての俺はノーダメで切り抜けるから実質無敵だぞ? ついでにこの戦闘服には防火機能も付けてあるから安心!』


 リスナーたちからの祝福の火炎瓶を余裕たっぷりで受け止める枢は、新衣装お披露目配信らしい反応で彼らとやり取りをしている。

 ある意味ではこの配信で最大の盛り上がりを見せる彼の傍らでは、芽衣としずくがこそこそと話をしていた。


『あ、あの、ボク、別に芽衣ちゃんから枢くんを取ろうとか思ってないからね? そこだけははっきりさせておくから、安心して!』


『あっ、大丈夫だよ? さっきのはおふざけ半分だし、本当に取られるとか思ってないから! だからしずくちゃんの方こそプレッシャーを感じずに、枢くんと仲良くなってね!』


『う、うん……』


 取られるとか思ってない、ということは、もしかしなくとも芽衣は枢のことを自分のものだと思ってるんじゃないかと思ったしずくであったが、そこは深く突っ込まないことにしておいた。

 何にせよ、親友のお陰で当初の目的を達成できた上にしっかりと配信にオチが付いたことを喜ぶしずくは、うきうきとした気分で新衣装お披露目配信の終わりを迎えられたそうな。





 ……なお、息子の新衣装制作に関われなかったしゃぼんが後日配信上で愚痴を吐くと共に【Milky Way】が三人でお出掛けしたことをぽろっと漏らしてしまった結果、蛇道枢は今度こそ炎上した。(しゃぼんの方も何度目かわからない絶縁宣言を息子からされて泣いた)


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