欲しいもの、お揃いのなにか

「隙ありっ! そりゃあっ!!」


「ひゃんっ!」


「わわわぁっ!?」


 カンッ、という小気味良い音が響き、エアホッケーのパックがポケットへと叩き込まれる。

 二人掛かりでの対戦でもまるで歯が立たないことを悔しがる女性陣に向け、余裕の零が鼻高々に声をかけた。


「ゲームセットっすね。いや~、やっぱこういうゲームは男の俺が勝っちゃうか~!」


「あうぅ……! 零くん、もうちょっと手加減してよ~!」


「か、体を使うゲームは、ボクも苦手だ……」


 二対一というハンデを抱えた勝負でも圧倒的な勝利を収めた零へと、運動音痴な有栖と陽彩がくたくたになりながら恨み言をぶつける。

 だがまあ、最初からこうなる気はしていたし、なんだかんだで楽しめたから何も問題はないと思いながら、エアホッケーから離れた三人は次に遊ぶゲームを探して周囲を歩き回り始めた。


「結構色んなゲームをやったね! シューティングゲームもそうだし、レースゲームでも遊んだし……モグラたたきもやったよね!」


「ちょこちょこ動き回ってモグラを叩く二人、かわいかったよ。いいものが見れました」


「か、からかわないでよ。恥ずかしいなあ、もう……!!」


 ゲームセンターを訪れてからどれだけの時間が過ぎたのかはわからないが、三人はそれこそ時間を忘れてしまう程にここで遊び惚けていた。

 家ではできないゲームをプレイしたり、先程のエアホッケーのような体を使うゲームをプレイしたり、他にも様々なゲームで遊んだ三人は、間違いなくこの一時を存分に楽しんでいる。


 零も有栖もゲーム初心者なりに楽しんでいるし、熟練のゲーマーである陽彩は二人に輪をかけて楽しんでいるようで、珍しくテンションの上がった彼女の姿を見られたことを二人も喜んでいるようだ。


 そうやって、粗方目ぼしいゲームはプレイし終わり、そろそろ他の場所に移動しようかという雰囲気になった頃、三人は最初に訪れたクレーンゲームコーナーへと再び足を踏み入れていた。

 帰り際に何かお土産を……といった様子で何かいい物はないかと物色する三人は、クレーンゲーム内の景品を一つ一つ確認しながらコーナーを歩き回っていった。


「最初に見たぬいぐるみは、陽彩ちゃんにぴったりなものがないから止めておこっか。他に何かいいものはっと……」


「フィギュアとかはあるけど、あんまりアニメとか見ないからな~……秤屋さんとかなら詳しいし喜ぶんだろうけど、あんまり今日の思い出としては相応しくないもんね」


「お菓子の詰め合わせ……っていうのも、食べたら終わりになっちゃうからよくないか。そもそも結構大きいから持ち運びが大変そうだ」


 自分たちへのお土産兼今日のお出掛けの思い出となる景品が欲しい三人なのだが、それにぴったりな物が見つからないでいる。

 ああでもない、こうでもないと話し合いながら物色を続ける中、陽彩がぼそりとこんな呟きを漏らした。


「折角だし、何かお揃いの物がいいな。色違いとかでもいいから、三人で同じ物を持っていたいよ」


「そうだね……何か、いい物があるといいんだけど……」


 こうして三人でお出掛けした記念が欲しいというのもそうだが、Vtuber活動を通して出会った自分たちの仲を象徴するような何かが欲しいという気持ちは有栖も同じだ。

 願わくば、それが壊れたり消えたりしないずっと残る物ならいいな……とは思いつつも、性別や趣味がバラバラな自分たちに見合う物がそう簡単に見つからないことを理解している彼女は、それでも諦めずに条件に合う物を探し続けていく。


 陽彩もまた、有栖に負けないくらいの集中力を見せてクレーンゲームの景品を物色していたが、そこで零が複雑な表情を浮かべていることに気が付き、彼に声をかけた。


「零くん、どうかしたの? 何かあった?」


「う~ん……いや、そうじゃないんですけどね。どうすっかな~、と思いまして……」


「???」


 ちょっとだけ要領を得ない彼の言葉に、頭の上にハテナマークを浮かばせながら首を傾げる陽彩。

 記念の品を何にするか、という意味での迷いではなく、それ以外の何かに対する思考を重ねているように見える零の様子に疑問を深めた彼女は、もう少しそのことについて彼に質問しようとしたのだが、そこでぱたぱたと小走りで近付いてきた有栖が明るい口調で声をかけてきた。


「零くん! 陽彩ちゃん! いいもの、見つけたよ!」


「本当!? 何を見つけたの?」


「クレーンゲームの景品じゃあないんだけどね。でも、今日の思い出とかお揃いの何かにするならこれが一番かな~、って……!」


 嬉しそうに笑う有栖の導きに従い、彼女の後をついていく零と陽彩。

 クレーンゲームコーナーから離れ、また別の区画にやって来た三人は、見覚えのある筐体の前で足を止める。


「なるほど! 確かにこれならぴったりだね!」


「でしょ!? えへへ、気に入ってもらえてよかった~!」


「ああ、えっと……そうか、そうなるかぁ……!」


 それを目にした時、有栖と陽彩は嬉しそうに笑いながら納得したように頷き、零は実に複雑な表情を浮かべた。

 目の前にあるゲーム機を見つめる二人に対して、その奥に見える真っ赤な炎を幻視している彼は、この状況に対して僅かに危機感と忌避感を感じるも――


「零くんも良い案だと思うよね? !」


「前に一緒に出掛けた時以来だね……! あの時よりも今日はもっと賑やかになるよ!」


「ああ、うん。そうだね……」


 ――目を輝かせながら自分とプリクラを撮影することを楽しみにしている友人二人を失望させるわけにはいかないため、何も抵抗せずに同意した後、三人揃って筐体へと近付いていくのであった。


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