【Milky Way】、久々に集結
……とある秋の日、多くの人が行き来する駅前に、注目を集める男がいた。
右手にスマートフォン、左手に黒色のトートバッグを持つ彼は、現在時刻を確認しながらちらりと周囲の様子を見まわす。
平日の昼前であるが故にそこまで人は多くないが、それでも駅前ということもあって交通量自体は多いようだ。
なんだか道行く人たちから注目されているような気がしてならなかった(というより実際に見られている)彼……零は、その気まずさから逃れるように背後の壁にもたれ掛かるとスマートフォンを見ているふりをし始めた。
秋っぽく赤色を取り入れつつ、それと相性のいい黒や白を組み合わせたコーディネートで全身をまとめた今の零は、若干強面であることを除けば普通に格好のいいお兄さんといった風貌をしている。
目立つ赤色の服を着ていることも原因の一つではあるのだろうが、それを抜きにしても注目を集めるであろう彼が一人時間を潰していると――
「お待たせ、零くん!」
「ああ、有栖さん、おはよう」
自分の名前を呼ぶ声に顔を上げた零が、こちらへと小走りで近付いてくる少女に手を振って応える。
カーキのカーディガンに襟付きの白いシャツを合わせ、更にチェック柄のロングスカートを履いている小柄な少女は、零の目の前までやって来ると手を合わせて謝罪の言葉を口にした。
「ごめんね。思ったより時間がかかっちゃって……」
「いや、俺も今来たところだから気にしないで」
待ち合わせの時間に遅刻してしまった有栖へと、お決まりの言葉を返す零。
本当はそこそこ待ちぼうけをくらってしまったわけだが、女の子にそんなことを気取らせないようにするのが男の役目であるとばかりに平然とした態度を見せた彼は、そのまま本日の有栖のコーディネートを褒めていく。
「ロングスカートを履いてる有栖さんって、なんだか新鮮に見えるな。いつもより大人っぽく見えるよ」
「それ、普段が子供っぽいって言ってるわけじゃないよね? もしもそうだったら怒るから」
「ははは、そんなんじゃないって。今日もかわいいよって、褒めてるだけ」
「かわいいって……もぅ、またそうやってからかって……!!」
面と向かい合いながら、どう考えても恋人同士のそれとしか思えないやり取りを続ける二人。
ひとしきり彼女のことを褒めた零は、そこで再び周囲を見回すと、ここにいるべきもう一人の人物の姿を探し始めた。
「で……蓮池先輩はどこ? 確か、有栖さんと一緒に来るって話だったよね?」
「あ、あれ? さっきまで一緒にいたのに、どこに行っちゃったんだろう……?」
零からの問いかけに驚いた有栖が彼と一緒に陽彩の姿を探し始める。
待ち合わせ場所にいた零に声をかけるまでは確かに一緒にいたはずなのに……と、彼女が困惑する中、どうにも弱々しい声が二人の耳に響いてきた。
「む、無理だよ~……この間に入れるわけないよ~……ボク、完全にお邪魔虫になってるって~……」
「あっ、いた」
「ひ、陽彩ちゃん? そこで何やってるの?」
声のした方向を見てみれば、そこには壁に頭を打ち付けて何かをぼやいている陽彩の姿があった。
普段のよれよれTシャツ姿からの脱却を図るお洒落をしている彼女は、グレーのシャツに白いオーバーオールと子供っぽいながらも掛けている眼鏡に合った服装をしている。
問題は、そんな陽彩の全身から発せられる負のオーラであり、その様子を訝しむ零と有栖に向け、どんよりとした雰囲気の彼女は涙声でこう述べた。
「完全にデートする恋人のやり取りじゃん……ボク抜きで出掛けた方が楽しいやつじゃん……! この間に挟まって遊びに行く勇気なんて、僕にはないよ~……!」
「な、何言ってるの、陽彩ちゃん!?」
「そうっすよ。今日は【ペガサスカップ】優勝を祝して、三人で遊びに行こうって話をしてたじゃないですか。別に俺と有栖さんは恋人でもなんでもないんですから、自分がいない方がいいとか言わないでくださいって」
初っ端からくるめいの甘いオーラに当てられ、自身の存在意義を見失った陽彩をフォローする零。
【Milky Way】だけで過ごす休日のお出かけを楽しむべく、妙に凹んでいる彼女を慰める零であったが……有栖と陽彩には、彼に秘密のお出掛けの目的が存在していた。
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