大将戦、開始


『こっちは終わりました。回復が終わり次第、すぐに援護に向かいます』


『ありがとう、枢くん。でも、ここはボクに任せてくれないかな』


 檸檬を倒した零は、彼女に完全なるトドメを刺してから減った体力を回復しつつ、陽彩へと状況を報告する。

 彼の勝利と有栖の道連れ戦法によって勝負は2対1……【Milky Way】が圧倒的に有利な状況になった。


 このまま2人で協力し、ルピアを挟み撃つような陣形を取れば間違いなく勝てるはずだ。

 だが、敢えて陽彩はその状況を拒否すると、気持ちを落ち着かせるように深呼吸を行い、顔を上げた。


『……この状況だ。どの道、枢くんが来るまでにボクたちの勝負は終わってるよ。だからこそ、ボクは真っ向から夕張さんとぶつかってみたいんだ』


 状況がこちら側に傾いたことはルピアも理解しているはずだ。そして、勝負が長引けば数の利を活かされて敗北することもわかっているに違いない。

 先程とは逆……チームメイトを助けるために決着を急がなければと焦っていた陽彩の立場に、今度は彼女が立っている。

 仲間たちの奮闘によって万全の状態を整えた陽彩を、零が援護に駆け付けるまでに倒さなければその時点でほぼ敗北が確定するこの状況に、ルピアは焦りを募らせているはずだ。


 ……いや、焦ってはいないのかもしれない。むしろこの状況は、彼女に覚悟を決めさせる最後の一押しになってしまったかもと陽彩は思う。

 頼れる者がいなくなった今、ルピアが考えていることは一つ……自分が残る敵を全員倒す、それのみだ。


 やることがシンプルになり、誰にも気を遣わなくてよくなった今、彼女は全ての感情をむき出しにして襲い掛かってくるだろう。

 所謂、バーサーク状態。目の前の敵を屠ることだけを考え、戦いに没頭するルピアを相手にどう立ち回るべきかと陽彩が考え始めた、その時だった。


『っっ……!?』


 ガチャン、という窓ガラスが割れる音を耳にした彼女は、即座に身を潜めていた物陰から飛び出すと共にワイヤーを射出する。

 ダッシュと跳躍とを組み合わせた迅速な移動でその場から離れた陽彩の背後では一拍の間を空けてから轟音と共に爆風が巻き起こっており、少しでも反応が遅れていたら、彼女もあの爆発に飲まれて大ダメージを負っていただろう。


 フラググレネードを使った奇襲とあぶり出し……勝負を急ぐルピアの攻めの手を巧みに回避しながら、陽彩は彼女の居場所を探る。

 グレネードの飛んできた方向、射程距離、ルピアの思考、そういった断片的な情報を頼りに移動を続けながらの思考を続けていた陽彩は、ふぅと息を吐くと共に大きく空中へと飛び上がった。


(居た……っ!!)


 ワイヤーを用いての大ジャンプをしつつ、ぐるりと体を反転させた陽彩は、こちらを見やり銃を構えるルピアの姿を目にすると共に同じく武器を構える。

 空中の陽彩と地上のルピア、互いに視線を交わらせたその瞬間に引き金を引き始めた2人は、激しい銃撃戦を繰り広げ始めた。


『ぐっ……!? 流石にやる!! でも……っ!!』


 空中を慣性の法則に従って移動する陽彩と、そんな彼女を足を止めた状態で狙い撃つルピア。

 互いに与えているダメージは同程度であったが、ルピアには落下してきた陽彩の着地時の隙を突けるという大きなアドバンテージがある。


 僅か1秒程度の隙だが、その1秒の隙が命取りになるということを長年のプレイによって熟知しているルピアは、少しずつ移動をしながら陽彩の落下予想地点へと狙いを定めようとしていたのだが――


『そうはさせないっ!!』


『ちっ……!!』


 空中で再度ワイヤーを射出した陽彩は、地面に向けてそれを打ち込むことで着地位置とタイミングを完璧にずらしてみせた。


 テクニックを用いた陽彩が自分の予測していた位置やタイミングを大きく外して着地を行ったことで、その際の隙を突くことができなくなったルピアが小さく舌打ちを鳴らしながら相手側からの射線を切る。

 同じく、陽彩もまた近場にあった遮蔽物の陰に隠れ、お互いが目に見える範囲にいながらも戦況は膠着した状態へと向かっていった。

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