ライバルの、悲壮な覚悟
『ああ、そうだね。俺もちょっと気になってたんだ』
『うん。ボクも夕張さんがどんな意気込みを聞かせてくれるのか興味あるね』
本配信で表示されている画像が変わり、【VGA】代表チームである3名のVtuberたちの姿が表示される様を見つめながら零と陽彩が有栖の言葉に応える。
武道ゆかり、三三檸檬、そして、夕張ルピア。
間違いなくこの大会で最大の注目を集めている3名を司会者たちがどう紹介するのか、そしてその際にルピアが何を語るのかが気になっている彼らは、無言になって本配信へと意識を傾ける。
『では、続きましてこのチームを紹介しましょう! バーチャル世界からの刺客! 最強ゲーマー女子たちが今回の【ペガサスカップ】に参戦! Vtuber事務所、【Virtual Gaming Act】代表! チーム【Winning Girls】!!』
【うおおおおおおおっ! ルピア! ルピアっ!!】
【色々と残念なこともあっただろうけど、そういうこと気にせずに頑張れ!】
【逆風に負けずに大会でいい成績を残してほしい】
他のチームたちにも負けないくらいの盛大なチーム紹介を受ける【VGA】代表チームへと、惜しみない声援を送るリスナーたち。
こうして配信を観る限りは、緑縞穂香の炎上による影響が出ていないように思えるが……実際に表示されているコメントの裏では、いくつもの罵声がモデレーターたちによって削除されていた。
【何で参加を辞退しなかったんだ? お前らのせいで大会にケチがついたんだぞ?】
【迷惑ズルゲーマー集団【VGA】、紹介はこんなもんでいいでしょ】
【こいつらのせいでただでさえ嫌いだったVtuberが一層嫌いになったわ】
そんなコメントたちが書き込まれては、配信に映る前に消されていく。
【ペガサスカップ】を観ている数万のリスナーたちの中に、ルピアたちへの憎しみを募らせている人間が多くいる証であるその様子を目にしている零は、何ともいえない息苦しさを感じると共に表情を歪めた。
(やっぱ、そうなんだよな。これが今の真桑さんたちに対するゲーマーたちからの評価ってやつなんだよな……)
実際に不正に手を出したわけでなくても、謝罪をしたとしても、それだけで全てが許されるわけではないということは零だって理解している。
問題発生から数週間、こんなにも厳しい周囲の眼差しに晒されながらも事務所の名誉を挽回するために努力を重ねてきた甜歌たちは、こんな風に罵声や中傷を浴びせ掛けられながらこの舞台に立っていることをどう思っているのだろうか?
話し合いの場で、勝つことだけを考えてゲームをプレイすると言い切った彼女の言葉を思い返した零は、今日を迎えるまであまりにも重い責任を背負い続けてきた甜歌たちがその想いを貫き続けたことに一種の畏怖を感じていた。
負けるわけにはいかない。優勝以外の結末なんて許されていない。
そんな彼女たちの想いを表すかのようなチーム名について、実況と解説を務める男たちが触れていく。
『【winning Girls】……勝利を掴む乙女たち、ですか。これはかなり攻めた名前ですね』
『絶対に勝利するという強い気持ちがひしひしと伝わってきますよ。これは、好プレーが期待できそうです!』
明るく饒舌に語る彼らには、甜歌たちの悲壮な想いが理解できているのだろうか?
全く理解できていないからこそこうして明るく話せているのか、それとも感じ取れているからこそ敢えて明るく振る舞ってその感情を振り払おうとしているのか、それは本人たち以外にはわからない。
本配信を見守る零が、有栖が、陽彩が……言葉にせずとも同じことを考える中、実況を務める男がインタビューで答えたルピアの意気込みを語っていく。
『リーダーである夕張ルピアさんですが、意気込みに関しては優勝の一言しか答えなかったそうです。元々、勝利に貪欲な性格をしていますが、今回は特に本気さが伝わってきていますよ』
『う~ん、素晴らしい! ですが少し肩の力を抜いて、ゲームを楽しんでもらいたいところですね!』
彼女の本気を、覚悟を知っている零たちからしてみれば、その答えは笑いながら気楽に受け止められるものではなかった。
優勝以外見ていない、それ以外の道など存在していないという【VGA】チームの想いを改めて突きつけられた気分になった彼が言葉を失う中、小さく息を吐いた陽彩が自嘲気味に呟く。
『優勝、か……格好いいな、本当に。ボクなんて、インタビューに答えるだけでいっぱいいっぱいだったのになぁ……』
【しゃーない! ルピアはメンタルつよつよだから、比べるだけ無駄無駄!】
【くるるん並の鋼メンタルだからね、仕方ないね】
【ウオミーも頑張ったんだからそれでいいじゃない!】
ルピアと自分を比較した陽彩の呟きは、それを聞いたリスナーたちの笑いを誘ったようだ。
零たちが押し黙ってしまっていたが故に暗くなっていた空気をその一言で払拭した陽彩は、深呼吸をしてから頬笑みを浮かべて言う。
『ねえ、みんな。大会が始まる前に、ちょっとだけボクの話を聞いてもらっていいかな?』
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