チームメイトは、何を思う?
『ねえ、ゆかりは今、このゲームやってて楽しい?』
『………』
『ははっ! そっか……大丈夫だよ、ルピアにチクったりしないから。それに、私も同じ気持ちだしね』
嘘がつけない正直な後輩の無言という回答から全てを察した檸檬は、からからと笑いながら彼女を安心させるようにしてそう言った。
その口調はVtuber三三檸檬が持っているギャル風のとても軽いものではあったが、その軽さが逆に彼女の心の虚しさを物語っているように思えてならない。
昨日と今日、配信は行わない形で集まって、今まで通りの練習をしているはずなのに……今の自分たちは、このスタバトというゲームに楽しさではなく息苦しさを感じている。
好きなはずのゲームを、大会に向けて真剣に取り組み続けていたはずのスタバトを、楽しめなくなっているのだ。
趣味を楽しめない、目前にまで迫った大会を、遊びの延長線上にあるものだと思うことができない。
穂香の炎上を切っ掛けに噴出した問題が自分たちの精神を蝕み、それが原因で心が俯いているという自覚はある。
だが、それ以上に問題なのは、チームリーダーであるルピアの精神状態がおかしいということであった。
『……ルピアは悪くないのはわかってる。私たちのメンタルが沈んでるのも大きな理由だし、あいつはあいつなりに頑張ってるだけだしね。でも――』
『見ててしんどいっす。今の夕張先輩、ずっと張り詰めていて辛そうっすよ』
同じFPS部門に所属する同期が問題を起こし、ルピアが大きな被害を被っていることは理解している。
何も悪いことをしていない彼女の下に送られてくるメッセージやコメントが如何に残酷で、無慈悲なものであるかも実際に目にして、そのことについて檸檬もゆかりも心を痛めている。
今、彼女がありとあらゆる方向から追い詰められている姿を2人は自分の目で実際に目撃していた。
だからこそ、大会で優勝することで自分や事務所にかけられた汚名を返上しようとするルピアの意志を尊重し、彼女についていっている。
それでも……少し前までの真剣ながらも楽しそうだった彼女の姿を誰よりも近くで見続けてきた2人にとっては、変貌してしまった今のルピアの姿は見るに堪えないものであった。
いっそ、自分たちも大会参加を辞退しようと彼女に言うことができたら、どれだけ気持ちが楽になっただろう?
だがしかし、ここで逃げてしまっては自分たちの心も納得できないし、【VGA】の名誉を挽回する最大のチャンスを逃してしまうことだけは避けたかった檸檬は、一抹の後悔を抱えながらも最後までそのことをルピアに言えずにいる。
誰よりもFPSゲームに真剣に向き合っているルピアだからこそ、【VGA】やそこに所属する仲間を守りたいと思っている彼女の意志を理解しているからこそ、檸檬もゆかりも付き従うことに決めた。
それでも……今のルピアの姿は自分たちが好きだった彼女の本来の姿ではないという想いを拭い去れない2人は、その苦しみを重苦しいため息として吐き出してから言う。
『支えてあげないとね、私たちが。ルピアのことを誰よりもわかってあげられるのは、私たちなんだから』
『うっす! 自分もできることをやっていくっす!』
今は少し、ルピアも心が不安定になっているだけだ。
こんな時だからこそ、同じ事務所の仲間として、友人として、彼女のことを支えてあげるべきなのだろう。
ただ、そのために必要なゲームを心の底から楽しむという行為ができていない自分たちがどれだけルピアの力になれるのか? と考えたところで檸檬はそのネガティブな思考を振り払った。
『ルピアが戻ってくるまで、射撃練習でもしてよっか。アサルトライフルとショットガンの扱いだけはきちんとできるようになっておかないとね』
『うっす! お供します、三三先輩!!』
揺れ動く自分の心を表しているかのような的に狙いを定め、銃口から放った弾丸で自分自身の弱さを撃ち抜くように射撃練習を繰り返す檸檬とゆかり。
周囲で悪いことばかりが続くルピアであったが、少なくとも彼女たちのような自分のことを信じて、傍で支えようと思ってくれる友人がいる部分は、間違いなく恵まれた部分であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます